【怖い話】整形アプリ

 

まさに革命だった。
アプリ内で、サンプルの顔を選び、自分の顔をカメラで映すだけで、なりたい顔に一瞬でなれる。
整形アプリ。
22世紀を待たずに、こんなハイテクノロジーが誕生するとは誰も思っていなかっただろう。
世界を驚かせるに十分すぎた。
通りを歩けば整形アプリのユーザーと必ず出くわすくらい浸透するのに、一週間もかからなかった。
リリースからわずか一ヶ月後には、他人と同じ顔は嫌だというユーザーの声にこたえ、大型アップデートを実施。
細かい顔パーツやパラメータまで調整できるフェイスメイク機能を実装した。
これで誰が整形アプリを使っているかわからなくなった。
3ヶ月も経つと、犯罪に悪用する人々が現れ、多くの指名手配犯がこのアプリのおかげで警察の目を逃れた。
国会で「整形アプリ規制法」が審議され始めることになった。

開発したベンチャー企業は、世間をどんなに騒がせても、アップデートやメンテナンス以外で表に出ることはなかった。
企業秘密の漏洩リスクを盾にマスコミの取材も全て断っていた。
いったいどんな画期的な技術が使われてるのか、どんな人物がアプリを開発したのか、一切が謎に包まれていた。
一部の科学者は羨望も含んだ疑いの眼差しを向け、こう断言した。
今の人類の科学力では、整形アプリは実現できるはずがないと。
整形アプリを巡る議論はますます熱を帯びている・・・。

K博士は、ネットニュースを消した。
自分が開発した整形アプリが世間を騒がせてることにほんの少し後ろめたさを感じながら、自分だけが秘密を知っている背徳感にすっかり酔っていた。
K博士の専門は脳科学だ。
整形アプリは偶然の産物だった。
ある特定の電気信号を脳に浴びせることで、視覚を操作できるという大発見をしたK博士は、それを応用して『見せたい映像を見せる』技術を確立した。
整形アプリは、実際に顔を変えているわけではない。
人々はスマホの端末周囲5mに放射されている特殊電波によって、アプリが作り出す幻影を見せられているだけなのだ。
特殊電波を浴び続けることで、どんな副作用があるか、博士自身にもわからない。
なので、自分自身は整形アプリを1、2度しか試したことがない。
世の中の人達がここまで盲目的に安全性が保証されていない技術に飛びつくのには、ほとほと驚かされる。

しかし、もう少しすれば、整形アプリのからくりに気がつく人間が出てくるだろう。
そろそろ潮時だ。
それはK博士も気がついていた。

『整形アプリの闇暴かれる』という週刊誌の記事が掲載されたのは、それからすぐのことだった。
脳への電気刺激で幻を見せられていたと知った人々は怒り狂った。
一方で、整形アプリのからくりを見破った専門家へは、称賛が送られた。
世の声に後押しされる形で専門家は記者会見を開いた。
ステージに登壇したのは、K博士だった。
K博士は世の中を救った正義の科学者として、時代の寵児となった。
色々な企業や研究所からのスカウトがあり、講演依頼は増え続けた。
政府も、『整形アプリ規制法』の策定のためK博士の助けをこうた。
また、最近では、防衛庁をはじめとした各国の軍関係者がこぞって、K博士と接触し始め、『整形アプリ』技術の兵器転用と防衛法の確立の競争が始まる気配であった。

その一方、警察やマスコミが血眼になって探してるにも関わらず、いまだに『整形アプリ』の開発者は、素性が謎のベールに包まれたままでいる・・・。
K博士は今日もほくそ笑む。

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-SF, ショートホラー