【怖い話】樹海で拾ったビデオカメラ #293

 

私はフリーでライターをしている。
お金になるなら何でも書くのだが、中でもオカルト系雑誌の連載は好評で、オカルトライターと言われることも多い。

先日、ライター仲間のKが、取材で訪れた青木ヶ原の樹海で、私が興味を持ちそうな面白いものを見つけたと連絡してきた。
樹海といえば言わずと知れた自殺の名所で最恐の心霊スポットだ。

数日後、電車でKのマンションを訪ねた。
Kが私に見せたのは、家庭用ハンディカムだった。
樹海で拾ったビデオカメラ・・・。
それだけでホラー系DVDのタイトルになりそうだ。
一体どんな映像がおさめられているのか。
「お前が興味示すだろうと思ってな」とKは顔をほころばせて言った。
私は頭の中で、すでにオカルト系雑誌に持ち込む企画を練り始めていた。
「撮影データは残っているのか?」と私は聞いた。
「ある。確認した。30分程度の動画だ。一緒に見ようじゃないか」
Kは、ハンディカムをテレビに接続し、再生ボタンを押した。

荒い映像が流れ始めた。
夜の樹海の中を、懐中電灯を頼りに歩くグループ。
男性2人と女性1人。
それにカメラマンを加えて4人。
手振れがひどいから素人だろう。
『撮れてる?』
『うん』
親しさを感じる距離感。
樹海に肝試しに来た大学のサークル仲間か何かだろうか。
「ブレアウィッチみたいだな・・・」
Kが言った。
私もその映画を思い出していた。
森で行方不明になった男女が残したビデオテープの映像という設定のフェイクドキュメンタリーホラーだ。
あるいは樹海の彼らも、フェイクドキュメンタリーを作ろうとして樹海を訪れたのかもしれない。

映像の男女の会話から、彼らが『樹海にいく』と言い残し行方不明になったサークル仲間を探しに来たのだとわかった。
なんだかできすぎな設定のような気がした。
少し気持ちが冷めてきている自分がいた。
やはり素人が作ったフェイクドキュメンタリーか・・・。

奇妙な音、恐ろしい気配、仲間割れ、一人ずつはぐれていくグループのメンバー。
POVホラーの教科書のような展開が続いた。
最後は撮影しているカメラマンだけが残された。
カメラマンは樹海から脱出しようと必死に走っている。
もはや撮影そっちのっけだ。
カメラは地面に向けられたまま、画面が前後左右に激しく揺れた。
見ていて気持ち悪くなりそうだった。

唐突に画面が切り替わった。
どこかのマンションの一室。
カメラがテーブルに置かれ、ソファを映し出す。
全身泥だらけの男性が姿をあらわす。
カメラマンだ。
彼の自宅なのだろう。
「・・・みんな連れていかれた。みんな連れていかれた。行ったらいけなかったんだ、樹海になんて、行ったらいけなかったんだ、」
カメラマンは泣き出した。
そして、映像は終わっていた・・・。

もはや私は興味を失っていたが、Kは映像が終わった後も考え込んでいた。
「どうした?」
「いや、このビデオカメラ、どうして樹海に落ちてたのかな、と思ってさ・・・変じゃないか?カメラマンは自宅に無事に帰っているのに」
「この動画を作った連中が、わざと樹海に捨てたんじゃないか?」
「・・・なんのために?」
「カメラを拾った人間を怖がらせるために、かな」
「できるだけ多くの人に見てもらいたいのが映像クリエイターの心理だろ。作りモノならこんな手の込んだことするか?拾う保証もないのに」
「・・・なら、お前はホンモノだと思うのか?」
「わからない。けど、樹海にカメラがあったってことは、カメラマンはカメラごと樹海に連れ戻されたのかなって、ふと俺は思った」
「連れ戻された?」
「・・・この撮影グループを樹海で襲った"何か"はカメラマンの家まで追ってきたんじゃないか?」
その時だった。
ドン!と大きな音が壁の向こうで鳴った。
隣の部屋からだ。
心臓が口から出そうになった。
Kをうかがうと、いっそう険しい顔をしていた。
「・・・隣は空き部屋だ」
私とKは顔を見合わせて、壁に耳をつけてみた。
壁の中から聞こえたのは、ズルズルと何かが引きずられるような音と、「うおおん、おおん・・・」という獣のような声だった。

私もKも確信した。
このビデオカメラはホンモノのいわくつきだ。
「すぐに供養して引き取ってもらおう」
私の知り合いの住職に、いわくつきの品を引き取ってくれる方がいた。

すぐ二人で住職のところにいくはずだった。
ところがそれは叶わなかった。
私が一度自宅に戻って、クルマを回して戻った時には、Kは忽然と姿を消していた。
カメラごと・・・。

Kは連れ去られたに違いない。
樹海に棲みついた"何か"に。

それから、Kの行方を追って、何度目かの樹海捜索を試みた。
そして、ついに私は発見した。
あのビデオカメラを・・・。
おそらくは罠に違いない。
カメラの映像を確認すれば、私の命がないかもしれない。

けど、私はKに何があったかどうしても確認したかった。
・・・私はビデオカメラを拾い、樹海を後にした。

自宅へ帰える途中、この記事を書き上げている。
もしかすると、これが私の最期の記事になるかもしれない。

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