ホワイトデーの怖い話 #292

2018/03/14

 

これは大学2年生の時のホワイトデーに体験した怖い話です。

当時、私には付き合って半年になる彼がいました。
バレンタインデーには、手作りのチョコを彼に送ったので、ホワイトデーにはどんなお返しをくれるのかなとひそかに期待して待っていました。

「14日、車借りてドライブいかない?」

彼がそう提案してきたのはホワイトデーの1週間前でした。
初めてのドライブデートだったので、私はウキウキして14日を迎えました。

行き先などはすべて彼にまかせていました。
車を普通に運転しているだけなのに、その日は、いつもより頼もしく見えました。

高速道路に乗り、都内から出ました。
次第に風景に緑が増えていきました。

「今日はどこに行くの?」
そろそろ聞いてみてもいいかなと思い、行き先をたずねてみました。
「できるだけ遠く」
後から思えば、その時に何かがおかしいことに気づけばよかったのです。

休憩は何度かとりましたが、ほとんど車を走らせているだけで、日が暮れていきました。
気がつけば、どこの県かもわからない山の中です。
想像しているドライブデートとはあまりにもかけ離れていました。
彼はただ車を走らせたかっただけなのかもしれないな、と思い始めました。
今日がホワイトデーだということも忘れているのかもしれません。
デートを台無しにはしたくなかったので、できるだけ不満が顔に出ないよう、楽しく振る舞おうとしました。

ですが、彼の様子が次第におかしくなっていきました。
頻繁にバックミラーやサイドミラーでチラチラ後ろを確認するようになり、
時計を何度も見ては、イライラしているようにハンドルをコツコツ指で叩きました。
街灯もない峠道を走っているのは私達の車くらいなのにです。
私が話しかけても無視することが多くなりました。
いい加減、我慢の限界でした。

「車止めて!」
「・・・ん?どうかした?トイレ?」
「いいから車とめて」
彼は路肩に車を停めました。
「なに?体調でも悪い?」
彼は私を心配する素振りをみせましたが、内心イライラしているのがわかりました。
「そうじゃなくて、さっきから何なの?変だよ」
「・・・そう?」
「そうだよ。それに、どこにも寄らないで、ただ車走らせてるだけ。こんなのデートじゃない。今日、ホワイトデーだよ?」
「・・・ごめん」
「何かあるなら話してよ」
「・・・ごめん」
何を聞いても「ごめん」しか返事が返ってきませんでした。
「もういいや、私、一人で帰るね」
私がドアに手をかけると、彼が身をのりだして止めました。
「わかった。話す。ちゃんと説明するから」
・・・それから彼が話し始めたのは、初めて聞く高校時代のことでした。

「同級生にKっていう女の子がいたんだけど、バレンタインデーに告白されて、付き合って欲しいって言われてさ。その頃、部活で忙しかったし、好みのタイプでもなかったから、断ったんだ。そしたら、友達として遊びに行くのもダメか?って言われて、それだったらって、お返ししないといけないし、ホワイトデーに遊びに行く約束したんだ。
・・・でも、俺、そんな約束忘れてて待ち合わせ場所に行かなかったんだ。そしたら、しばらくして、その子、学校来なくなって・・・」
彼は続きを言い淀んだ。
「・・・それから、どうなったの?」
「・・・その子、死んだらしい。事故だって。詳しいことはわからなくて、ただ死んだって知らせが学校に入ったって・・・その翌年から、ホワイトデーになると、来るんだ・・・」
「来る?」
「死んだKって子が俺を迎えに来るんだ・・・家のインターフォンが夜中じゅう鳴ったり、去年は窓を開けようとしている黒い影が見えたり・・・だから、今年は遠くに逃げようと思ったんだよ。付き合わせて悪かったと思ってる。けど、俺だって、怖いんだよ」

・・・彼の話がどこまで真実かは正直わかりませんでした。
けど、ひとつだけわかりました。
彼は付き合う価値のないクズ男だということです。

「・・・ヒッ!!」
その時、彼が聞いたこともないような声をあげました。
バックミラーを見つめたまま固まっています。
ミラーには、車の背後の真っ暗な道が映っていました。
その道の真ん中に、女性の人影がありました。
「・・・あの子だ・・・来た!来た!」
女性の影が、ゆらりゆらりと車に近づいてきます。
「車出して!」
彼はハッとしたようにアクセルを踏み、車を走らせました。

山を降りてふもとの街に出るまで一言も話しませんでした。
私は、そこから最も近い駅で降ろしてもらいました。
「約束守ってあげたら?」
去り際、そう言って、ドアをしめました。
彼はシュンとして俯いているだけでした。
ロータリーを走り去っていく彼の車をチラリと見ると、
後部座席に見知らぬ女性が座っているように見えました。
きっとあれがKさんで、
この先も彼にとり憑き続けるのだろうと思いました。

それが私の人生最悪のホワイトデーです。
それから、彼とは連絡を取っていません。
彼からも特に連絡は来ませんでした。

今年もホワイトデーの季節がやってきます。
万が一、あなたの彼が何かに怯えているようでしたら、
気をつけた方がいいかもしれません・・・。

-怖い年間行事, 怖い話