入学式の怖い話 #285

 

おかあさん、おとうさん、どうして私を置いて逝ってしまったの。
中学校の入学式なんか来たくなかった。
おばさんは仕事で忙しいから、
入学式には来られないって。
本当はあまり来たくないだけだって知ってる。

周りの同級生の子達は、校門の前や桜並木を背景に家族と記念写真を撮影している。
私は一人ぼっち。
誰もお祝いしてくれない。

ひどいよ。
考えだすと孤独で涙が出そうになる。

ようやく式が終わった。
教室で担任の先生から、明日からの説明が簡単にあって、その日は終わり。
みんな家族と待ち合わせて一緒に帰っていく。
一人で帰っているのなんて私だけ。
同級生は新しい門出に胸を踊らせ、家族はそんな自分の子供を眩しそうに見ている。
みんな幸せそうだ。

「入学おめでとう」
校門までの道を歩いてたいたら、いきなり声をかけられた。
誰かの保護者だろうか。
知らないご夫婦だった。
二人とも優しそうな顔をしている。
いきなりのことでとまどったけど、会釈を返した。
今日私に話しかけてくる人なんていなかったからドギマギした。
見知らぬ他人にでも「おめでとう」と言われるのは、正直、嬉しかった。
「写真いいかしら?」
なぜか、ご夫婦と写真を撮ることになってしまった。
本当の両親じゃないとしても暖かい気持ちになった。

「あなたご家族は?」
聞かれたので、
「・・・きていません」
と答えた。
「あら、せっかくの入学式なのにねぇ」
「私には両親がいないんです」
「・・・そうなの」
ご夫婦は同情した顔をしてくれたけど、なんだか嬉しそうにも見えた。
「じゃあ一緒に帰らない?」

ひょんなことからご夫婦に送ってもらうことになった。
車が停めてあるという近くの駐車場まで一緒に向かった。
ワンボックスカーの後部座席に乗り込みながらふと疑問に思った。
「・・・お子さんは一緒に帰らないんですか?」
すると、助手席の奥さんが振り返って言った。
「いいのよ。私たちに子供はいないのだから」
子供がいないのに入学式に参加するなんて変なの・・・。

「せっかくだからお茶でも飲んで行って」
ご夫婦は私を家に誘ってくれた。
温かい紅茶とお菓子の数々。
ご夫婦は私に色々聞いてきた。
どんな食べ物が好きなのか、普段家では何をして過ごしているのか、など。
お母さんとお父さんが生きていたら、『家庭』ってこんな感じなのかなと思った。

気づいたら夜も遅くなっていた。
お礼を言って帰ろうとすると、
「せっかくだから泊まっていきなさい」
と言われた。
いくらなんでもそこまではできない。
おばさんにも怒られる。
そう言ったけど、2人は譲らなかった。
出口を塞がれてしまい、
強制的に、子供部屋みたいなところに入れられた。
外側から鍵をかける音がした。

後悔した時には遅かった。
ドアは開かない。窓もない。
私は完全に閉じ込められていた。
おかあさん、おとうさん、
やっぱり入学式になんて行かなければよかったよ・・・。

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