おかあさん、おとうさん、どうして私を置いて逝ってしまったの。
中学校の入学式なんか来たくなかった。
おばさんは仕事で忙しいから、
入学式には来られないって。
本当はあまり来たくないだけだって知ってる。
周りの同級生の子達は、校門の前や桜並木を背景に家族と記念写真を撮影している。
私は一人ぼっち。
誰もお祝いしてくれない。
ひどいよ。
考えだすと孤独で涙が出そうになる。
ようやく式が終わった。
教室で担任の先生から、明日からの説明が簡単にあって、その日は終わり。
みんな家族と待ち合わせて一緒に帰っていく。
一人で帰っているのなんて私だけ。
同級生は新しい門出に胸を踊らせ、家族はそんな自分の子供を眩しそうに見ている。
みんな幸せそうだ。
「入学おめでとう」
校門までの道を歩いてたいたら、いきなり声をかけられた。
誰かの保護者だろうか。
知らないご夫婦だった。
二人とも優しそうな顔をしている。
いきなりのことでとまどったけど、会釈を返した。
今日私に話しかけてくる人なんていなかったからドギマギした。
見知らぬ他人にでも「おめでとう」と言われるのは、正直、嬉しかった。
「写真いいかしら?」
なぜか、ご夫婦と写真を撮ることになってしまった。
本当の両親じゃないとしても暖かい気持ちになった。
「あなたご家族は?」
聞かれたので、
「・・・きていません」
と答えた。
「あら、せっかくの入学式なのにねぇ」
「私には両親がいないんです」
「・・・そうなの」
ご夫婦は同情した顔をしてくれたけど、なんだか嬉しそうにも見えた。
「じゃあ一緒に帰らない?」
ひょんなことからご夫婦に送ってもらうことになった。
車が停めてあるという近くの駐車場まで一緒に向かった。
ワンボックスカーの後部座席に乗り込みながらふと疑問に思った。
「・・・お子さんは一緒に帰らないんですか?」
すると、助手席の奥さんが振り返って言った。
「いいのよ。私たちに子供はいないのだから」
子供がいないのに入学式に参加するなんて変なの・・・。
「せっかくだからお茶でも飲んで行って」
ご夫婦は私を家に誘ってくれた。
温かい紅茶とお菓子の数々。
ご夫婦は私に色々聞いてきた。
どんな食べ物が好きなのか、普段家では何をして過ごしているのか、など。
お母さんとお父さんが生きていたら、『家庭』ってこんな感じなのかなと思った。
気づいたら夜も遅くなっていた。
お礼を言って帰ろうとすると、
「せっかくだから泊まっていきなさい」
と言われた。
いくらなんでもそこまではできない。
おばさんにも怒られる。
そう言ったけど、2人は譲らなかった。
出口を塞がれてしまい、
強制的に、子供部屋みたいなところに入れられた。
外側から鍵をかける音がした。
後悔した時には遅かった。
ドアは開かない。窓もない。
私は完全に閉じ込められていた。
おかあさん、おとうさん、
やっぱり入学式になんて行かなければよかったよ・・・。

