【怖い話】心霊スポットを作る男 #264

 

これは雑誌記者Bさんが残した録音データを書き起こしたものである。
タイトルは「心霊スポットを作る男」
なお、プライバシーに関わる部分は伏せ字や仮になっている。

B「はじめまして。○○社のBともうします。よろしくお願いいたします」
M「はじめまして。Mです」
B「さっそくですが、Mさんは『心霊スポットを作る男』と呼ばれているそうですね。なかなかお目にかかれない肩書きですよねwどういった活動をされてるんでしょうか」
M「自分でそういう肩書きを名乗っているわけではないんですけどねw誰かが勝手にそう呼び始めただけで。普段は普通の会社勤めをしています。活動というほどおおげさなものではないですが、お願いされた時だけちょっとした副業をしています」
B「副業というのは?」
M「いわゆる霊視というんですかね」
B「マンションの部屋に幽霊がいるとか、そういったことを見てらっしゃるということですか?」
M「まあ、そういった類のものです。でも、誤解して欲しくないのは、僕はスピリチュアルな意味での幽霊を信じていたりするわけじゃないんです」
B「といいますと?」
M「残留思念というんですかね。人の強い想いというのは、その場に残るんだと思うんです。恐怖や憎しみや愛であれ。僕はたまたまそれを受信する力が人より高いだけで、幽霊が見えるというのとは違う気がします。今の科学ではわかっていないだけで、遠くない未来ではメカニズムやどんな化学物質が関わっているか判明していると思いますよ」
B「幽霊も科学現象とMさんは考えておられるんですね」
M「そうですね。体質的な問題ですよ」
B「なるほど。興味深いです。霊視ということなんですが、どういった方々がMさんに依頼をしてくるんですか?」
M「私の依頼主は基本的に法人です。個人のクライアントをお断りしているわけではないですが、広告を出したり宣伝をしているわけではないので、以前のクライアントの紹介でお仕事の依頼がくるのがほとんどです。クライアント名は具体的には申せませんが、公的機関やいわゆる大手企業さんが多いです」
B「1社か2社、さしつかえなければお話いただくことはできませんか?」
M「使わないでいただけるなら」
B「約束します。オフレコで」
M「先日は××さん(某大手不動産企業)から依頼がありました」
B「お話できる範囲でかまわないので、どういったお仕事だったのかうかがえますか?」
M「xxさんは、新しいマンション開発を進めていました。ところが、建設現場で次々と事故が起きて怪我人が出ていて、何かあるのではないかと思うので、見てほしいという依頼でしたね」
B「で、霊視を行ったわけですね」
M「はい」
B「実際何かいたわけですか?霊的なものが」
M「いました。ご夫婦の霊でした。その土地には以前、商店街があったんですけど、その商店街の一軒で経営難から一家心中があったんです。そのご夫婦のようでした。ご夫婦の霊の無念や怒りが、建設現場での事故を誘発していたようでした」
B「Mさんがお祓いをされたんですか?」
M「いえ。そこも誤解されやすいのですが、簡単にお祓いなんてできないんですよ。死んでまで残るような想いが、お経やまじないで簡単に祓えるわけがないと、私なんかは思っています」
B「では、どうするのですか?」
M「別の土地に移っていただくんです。まずは、その霊達が執着を持っているであろうモノを用意します。そのご夫婦の場合、遺族から、ハネムーンの時に買ったというハワイの置物をお借りしました。執着のあるモノを霊の近くに置いてしばらくすると、霊はそのモノにとり憑きます。あとは、そのモノをお札や経文で鍵をかけた箱にしまい、別の場所に移します。ですが、いつまでも鍵をかけた状態にはできません。
以前は寺社に引き取ってもらえていたのですが、私が持ってくるものは本当に危ないいわくつきの品だと噂が広まってしまい、引き取り手がなくなってしまいました。
なので、やむなく、人が寄り付かないであろう場所に今は隠すようにしています。
ですが、どんなところにも人は足を踏み入れるもので、私がいわくつきの品を隠したいくつかの場所が、心霊スポットとして有名になってしまいました。そんなことがあって一部の人から『心霊スポットを作る男』と揶揄されるようになりました」
B「なるほど。呼び名にはそういった背景があったのですね」
M「なので、最近は、すでに心霊スポットとして有名な場所に霊を移すようにしています。すでに霊が集まっている場所なら、私が作ったとは言われないので」
B「言葉は悪いですが、幽霊の不法投棄みたいですねw」
M「でもまさにそうですね。幽霊の不法投棄ですw」
B「もしよろしければ、Mさんが霊を移したという心霊スポットのなかで取材可能なところはありませんか」
M「・・・責任は負えませんが、大丈夫ですか?」
B「はい」
M「ここからそう遠くない場所に一ヶ所ありますが」
B「ありがとうございます。ではそこに」
(いったんテープの録音が停まる)

(車を降りてドアが閉まった音。目的の場所に着いたと思われる。枯れ葉を踏んで歩く音)

B「ここがそうですか?」
M「はい」
B「どれくらいの頻度で通われているんですか?」
M「半年に一度くらいですかね。できれば、私も来たくないんですよ。どんな悪い霊を持って帰るかわからないですから。あ、そこが入口です」
B「入って大丈夫ですか?」
M「どうぞ」
(きしんだ音。ドアを開ける音と思われる)
B「不気味なところですね」

(水がポタポタと滴る音)

(再びきしんだ音。ドアが閉まったと思われる)

B「え?Mさん!ちょっと何をやっているんですか?」
(ドアを叩く音)
B「Mさん!ちょっと開けてくださいよ!Mさん!」
M「すみません。出すわけにはいかないのです。ここがこれからあなたの住む場所です」
B「なにを言ってるんですか!?冗談やめてください」
M「申し訳ない。あなたが取材用のレコーダーに執着していると思ったのでインタビューを受けたのです。ここまでコミュニケーションを取れたのは初めてで、私も心苦しいですが、申し訳ない」
B「なにいってるんですか?私が死んでるとでも言うんですか?」
M「あなたは過労で亡くなられたんです。あまりに急なことであなた自身死んだことに気がつかず、オフィスに念が残ってしまった」
B「ありえない、現に私は今ここに・・・」
M「すまない」

(足音が遠ざかっていく)

(ドンドンと激しくドアを叩く音)

B「Mさん!行かないでください!嫌だ!こんなところに閉じ込められたくない!出してください!Mさん!」

(・・・録音は、そこで終わっている)

この録音データが入ったレコーダーが発見されたのは、関東のとある廃ホテルだ。
そこは心霊スポットとして有名で、発見者も仲間と肝試しにきて偶然レコーダーを見つけたそうだ。
心霊スポットに落ちていたレコーダーにどんな内容が録音されているのかと興味本位で持ち帰ったところ、このような奇妙な録音内容が入っていたという。
発見者は、テープ起こしをした後に謎の失踪を遂げ、この文字起こし内容だけが残された。
問題のレコーダーの行方も不明。
録音に出てきた『心霊スポットを作る男』の素性もナゾのままである。

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