黒い招き猫 #240

 

私の実家は小さなラーメン屋を経営していました。
一軒家の一階が店舗で二階が住居になってました。
私が生まれる頃は順調だったそうですが、有名チェーン店が次々と地方に進出するにつれ、
家計は火の車になり両親は喧嘩が絶えませんでした。
そんなある日のことです。
父が、リサイクルショップで見つけたと言って、黒い招き猫の置物を買ってきました。
お腹に小判を抱え片足を招くように上げていました。
父にすれば藁にもすがりたい気持ちだったのでしょう。
ですが、私は何だか、その招き猫の置物が苦手でした。
黒猫というのもなんだか不吉ですし、全体的に薄汚れていてボロボロでした。
なにより、猫の顔が、福を招くには、目つきが鋭いような気がしたのです。
母と私は猛反対しましたが、頑固な父は、黒い招き猫の置物を店のレジの横に置きました。
ですが、私達の心配をよそに、それからお店は繁盛し始めたのです。
私達は父に謝りました。
父も母も毎日があわただしくなりました。
でも二人とも生き生きとしていました。
「休みが欲しい」とこぼす二人はとても嬉しそうでした。
でも、幸せは長続きしませんでした。
仕込み中に父が倒れたのです。
過労からくる心筋梗塞でした。
父はあまりにも唐突に帰らぬ人となりました。
母一人でお店を続けるのは難しかったので、お店を畳んで母の実家の近くに引っ越すことになりました。
母と二人で引っ越し準備をしていると、
電話が鳴りました。
「はい、そうですか。ありがとうございます」
母はそう言って電話を切りました。
「誰から?」
「保険会社。お父さんの生命保険、満額出るって」
その時でした。
ガチャンと何かが割れる音が一階のお店の方からして私達は駆けつけました。
レジ横に置いていた黒い招き猫の置物が粉々に割れていました。
それを見て母がボソッと言いました。
「やっぱり悪いものだったんだねぇ。お父さん殺してお金を招くなんて・・・」
招き猫は父を殺すためにわざわざお店を繁盛させたのでしょうか。
私は、そう思えてなりませんでした。

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