京王線の怖い話 #226

2017/10/26

 

これは数年前の話。
当時、僕は調布から新宿の職場に京王線の電車で通っていた。
いつも満員電車なので座れることは、ほとんどなかった。
吊革につかまりながら、窓の外を流れ去る景色をボーッと眺めて、なんとか耐えしのぐ毎日だったが、ある時、面白い発見をした。
住宅と線路が近づく区間があるのだが、あるアパートの一室の鏡がチラッと見えることに気がついたのだ。
鏡には髪をとかす女性が映っていた 。
覗き趣味があるわけではないので、見てはいけないとすぐに目を逸らしたが、
電車がその区間に入ると、つい思い出して目をやってしまう。
すると、やはり髪をとかしている女性の姿が鏡に見える。
そんな日が何回か続いた。
電車がさしかかるタイミングと女性が朝の用意をするタイミングが一致しているのだろう。
僕は、悪いと思いつつ、その女性の姿を見るのが朝の楽しみになっていた。
何でもないことなのだが、閉塞感がある電車に閉じ込められると、
そういう日常の機微に癒しを求めてしまうものなのかもしれない。
美人というわけではないが長い黒髪が印象的だった。
そして、気のせいだろうか、だんだん女性と目が合うような気がしてきた。
向こうも電車からの視線に気づいているのだろうか?
でも、カーテンを閉めたりしないのはなぜなのだろうか?
そんなことを考えていたある日の朝のこと。
珍しく女性の姿が鏡に映っていなかった。
少しがっかりしていると、後ろから小さく声が聞こえた。
「・・・でよ」
窓ガラスに反射して後ろに立つ女性の顔が見えた。
「見ないでよ」
僕は驚きに目を丸くするしかなかった。
心臓が止まるかと思った。
窓ガラスに反射して映っていた女性は、間違いなく、アパートの鏡に映っていた女性だった。
僕を鋭い目つきで下から睨みつけている。
けど、振り返ると、女性が立っていた場所には誰もいなかった。
背筋がゾッとした。
その日以降、出社時間を早め、車両の反対側に立つようにした。
あのアパートの鏡に映っていた女性は幽霊だったのだろうか。
今でも窓ガラスに車内が反射すると、怖くなる・・・。

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