忘れん坊の悲劇 #222

2017/10/18

 

Cさんは子供の頃から忘れん坊だった。
宿題を忘れ、教科書を忘れ、給食費を忘れ、財布を忘れ、鞄を忘れ、どこかになくしてしまう。
見つかったものもあるけれど、ほとんどは出てこない。
モノをなくすたび、反省して心を入れ替えるのだけど、またなくす。
Cさんは悩んで、怪しいおまじないに手を出したこともあったけど、それでも忘れてしまう。
大人になってもそれは変わらなかった。
履歴書をなくさなかった唯一の企業に就職したけれど、大事な書類が入った鞄をなくし、
会社のお金をなくし、信用をなくし、居場所をなくし、ついには仕事をなくした。
その頃には両親の愛情もなくしていた。
Cさんは、深い深い絶望の中で、自分の心をなくしていった。
どうすれば忘れ癖がなくなるか、考えて考えて、ある日答えが出た。
「あぁ、なんだ、ずっと手離さなければなくならないじゃないか」
Cさんは、財布や身分証などの大事なものを詰めた鞄を身体に太い糸で縫い付け始めた。
血がいっぱい出たけど、痛くなんかなかった。
Cさんはずっと笑っていた。
ようやく長年の悩みが解決したのだから。
両親がCさんを見て叫んでいる。
あぁ、このままでは二人をなくしてしまう。
そう思ったCさんは、両親をなぐりつけ、部屋に閉じ込め、鍵をかけた。
これで二人ともなくさない。
Cさんは安心して作業を続けた。

・・・もし街の飲食店で決して鞄を置こうとしない人を見ても声をかけたらいけない。
「どうして鞄を置かないんですか?」
そういうと、その人は怒って襲いかかってくるという。

-ショートホラー