「ごめんなさい・・・」 #219

2017/10/24

 

先日、終電間近の駅のホームで奇妙な人を見かけた。
その男性はホームのベンチに座っていた。
見た目はスーツを着て眼鏡をかけた普通のサラリーマンだった。
私はくたくたに疲れていたので、ベンチに座って電車を待とうと思った。
ベンチに近づくと、その男性が何か独り言をつぶやいているのがわかった。
酔っぱらいなのかな・・・。
嫌だなぁと思った。
近くに座らない方がいいか迷った。
はじめは何を言っているのか聞き取れなかったけど、座ろうか迷っていると男性の言葉が聞き取れるようになった。
「ごめんなさい・・・」
男性は謝っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
繰り返し呪文のように唱えていた。
男性は何かを手に握りしめていた。
見てはいけないと思いながら、私の視線は男性の手に釘付けになった。
それは手の平に収まるくらいの大きさの人形だった。
黒くてぼろぼろで、あちこち綿が飛び出していて、死んだ魚のような目をした女の子の人形だった。
私はその人形を見た瞬間、ゾワッと全身の鳥肌がたった。
一目散に逃げ出し、ホームの反対側に行った。
それ以来、まだ一度もその男性を駅で見かけたことはない。
ただ、駅のホームに立つと、ときおり、どこからともなく声が聞こえたような錯覚に陥ることがある。
「ごめんなさい・・・」と。

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