【怖い話・心霊】深夜の通報 #209

 

「はい、○○交番」
電話に出ると、ザーという音だけで、相手は何もしゃべらない。
まただ。
この数週間、深夜になると何度も非通知の無言電話が交番にかかってくる。
俺は電話を叩き切った。
文句の一言もいってやりたかったが、今のご時世、やりとりを録音しておいて、ネットにさらす輩もいる。
事実、似たような話で、喧嘩腰に応対したところを録音されていて、地域課長から厳重注意を受け、左遷された同僚がいる。
余計なことは言わない方がいい。
警官の態度は横柄だという市民の声が多いが、市民の態度のでかさの方がよほど問題だと思う。
守ってもらって当然だと思っている。
深夜の交番にイタズラ電話をかけるような人間も、きっと似たようなものだろう。
あんまりひどいようなものなら係長に相談しよう。
その日は、金曜だったので、酩酊者の通報が数件あったが、それ以外は特に何もなく時間が過ぎていった。
深夜3時過ぎ。
交番の電話が鳴った。
反射的に電話を取った。
「はい、○○交番」
また、無言電話だった。
一日に二度もイタズラ電話がきたのは初めてだった。
イライラとして電話を切ろうと思ったその時、コーヒーを入れていてマグカップに腕が当たってしまい、床に落ちたマグカップが音を立てて割れた。
・・・俺は耳を疑った。
電話の向こうからも、ガチャンと何かが割れるような音が微かに聞こえた気がしたのだ。
・・・無言電話の主は交番の中から電話をかけているのか?
試しに、机をおもいきり叩いてみた。
ワンテンポ遅れて電話の向こうからバン!と机を叩く音が聞こえた。
一気に背筋が寒くなった。
慌てて電話を切った。
いったいどういうことなのか。
警棒を抜いて構えた。
交番の奥には、休憩室とトイレがある。
誰かが隠れるにはそこくらいしかない。
一歩一歩、慎重に進む。
まず、休憩室。
明かりをつけたが、誰もいない。
続いてトイレのドアを一気に開けた。
目に飛び込んできたのは、便座だけ。
誰も隠れていなかった。
だが、その時、微かになじみのあるにおいが鼻をかすめた。

朝、引き継ぎの際、係長にあることを確認した。すると、予想通りの返事が返ってきた。
俺は他県警から異動してきたので知らなかったが、昔、あの交番で若い巡査が拳銃自殺していたのだ。
昨夜、俺がトイレで感じた臭いは、拳銃の硝煙の臭いだった・・・。

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