YouTubeの怖い話 #189

2017/09/11

 

カメラの録画ボタンを押す。小さな液晶モニターに赤い録画ボタンが表示される。
「さぁ、今日、僕たちは心霊スポットとして有名な某トンネルに来てるわけですけども・・・」
深夜のトンネルの入口をバックにオープニングの撮影が始まった。
Aが慣れた様子で流暢に喋り出す。
Aは高校の同級生で、自分のYouTubeのチャンネルを運営している。
将来の夢はYouTuber。億を稼ぐと言われている彼らに憧れて真似をする同世代の子は結構いる。夏と言えば、心霊スポットに行ってみた系の動画が再生されやすい。
僕は、Aに撮影係を頼まれて同行していた。
「いやぁ、このトンネル、マジでヤバい雰囲気出てるよ。な、C」
「ほんと帰りたいっ、マジで」
Cも僕らの同級生で今回のゲスト。いや、巻き込まれ役という方が正しい。
実はこの撮影には裏があった。
ヤラセなのだ。
トンネルの奥にはAの相方のBが長い髪のカツラと白い服を着て待ち構えていて、何も知らずに歩いてきたBに襲いかかるという心霊ドッキリが本当の企画内容だった。何も知らされていないCは、トンネルを前にしてビビりっぱなしだった。
仕掛け人のAは、緊張しながらも、これから起きる撮れ高あるハプニングを期待して興奮を隠せない様子だった。
「じゃあ、これから順番に一人ずつカメラを持ってトンネルの奥に行こう」
Aが言った。Cを一人で行かせるための作戦だ。
「順番はクジで決める」
僕は2本の割り箸をカメラに映るよう取り出した。
「赤い線がついている割り箸をひいた引いた方が先な」
「本当無理だって、行きたくねえよ」
Cは震える手でクジを引いた。続いてAも。
もちろんこれにも仕掛けがある。両方の割り箸に赤い線がついているが、Aはあらかじめ赤い線がついてない割り箸を懐に忍ばせている。絶対にCが行くことになるのだ。
「せーの」
Cは自分の割り箸に線がついているのを確認して絶句した。
「ムリムリムリムリ」
本気で怖がっている。
「いやダメだよ。そういうルールだから」
Aは笑いをこらえようと必死だった。
「いや、マジでムリだって!」
行きたくないとごねるCへの説得はしばらく続いた。
それにしても、誰よりも怖いのはトンネルの奥で一人で待つBではないのか。
Bの役にならなくてよかったと心から思う。僕なら怖くてムリだ。
BはAの右腕だから仕方ないけど、2人とも1本の動画のためによくやるなと、感心さえ覚えた。
ただ、ネタバラしをされた時のCがどういう反応をするかはわからないが。
そこも含めてネタになるなら何でもアリなのがYouTubeということなのだろう。
数分後ようやくCが行く決心をした。
僕はCにもう1台用意していたカメラと懐中電灯を渡した。
Cはガタガタと震えていた。かわいそうなC。
自己顕示欲が強い同級生を持ってしまったのがCの運の悪さだ。
Cはゆっくりとトンネルの中に入っていった。
「なんか水の音がする!」Cが叫んだ。
「古いトンネルだから水が染み出してるだけだって、進んで!」
仕掛け人のAは僕が持つカメラにイタズラっぽい笑みを見せながらCに言った。
撮影しながら改めてトンネルを見てみると、不気味としかいいようがなかった。
山を掘り抜いて作られたという古いトンネルは、ゴツゴツとした岩肌から水が染み出していた。非常灯などもなく懐中電灯がなければ中は真っ暗闇だ。
それだけでも十分に怖すぎる。
Cの持つ懐中電灯の明かりが徐々に小さくなっていく。
「ひっ」「うわぁ」普段聞いたことがないようなCの悲鳴が断続的に聞こえてくる。
その時だった。
横の藪がガサガサと揺れ始めた。
僕とAは何事かと顔を見合わせた。
突如、葉や枝を身体中につけた白い服を着た長い髪の女が藪から飛び出してきた。
いや、それはBだった。
「お前、なんでここにいるんだよ!Cが中に入っていってるのに。ドッキリ失敗じゃないか」
「ムリだって、こんなトンネルの中で一人で待っているの!」
「今からCを追え!後ろからでも怖いから」
「いやだ!俺は二度と入りたくない、こんなトンネル」
にわかにAとBが喧嘩になりかけた時、「あぁぁぁ!」という大きな悲鳴がトンネルの中から聞こえた。Cに何かがあったのだ。
僕たちはドッキリのことなど忘れて慌ててCを追った。
100mほど進んだ地面にCが持っていた懐中電灯とカメラが落ちていた。
その先へ懐中電灯のライトを向け、僕たちは言葉を失った。
Cがこちらを向いて立っていた。身動きできないようだった。
それもそのはずだ。Cの背中に女がおぶさっていたのだ。
長い髪を垂らし白い服を着た女が。
AもBも目を見開き固まっていた。
「た・・・たすけて・・・」Cが懇願するように言った。
その瞬間、Cの身体が見えない力に引っ張られるようにトンネルの奥に連れ去られていった。闇がCの身体を飲み込んだ。
トンネルの奥からCの断末魔のような悲鳴が響いた。
僕たちは叫び声を上げ逃げ出した。
何も考えられなかった。ただひたすら走って逃げた。
トンネルを抜け、停めておいた自転車まで走り、山道を駆け下りた。
朝が来ても震えは止まらなかった。
・・・Cは今でも発見されていない。
Cが撮っていたカメラは僕が回収していた。
そこに映っていたものを言葉では説明できそうにない。
だけど、この恐怖を一人で抱えてはいたくなかった。
だから、僕はYouTubeに動画をアップした。
もしCが撮った動画を見つけても、自己責任で見て欲しい。
見た人に、どんな影響があるかはわからない。
僕のように、時々、Cの番号から着信があるくらいではすまないかもしれないから・・・。

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