【怖い話】【心霊】富士山の怖い話 #188

2017/09/11

 

世界遺産にも認定され、毎年、大勢の観光客が訪れる霊峰・富士山にまつわるこんな怖い話がある・・・。

大学生の頃、男友達4人と自分の計5人で富士登山にいくことになった。
ご来光を見るため夕方過ぎに出発。
8合目か9合目の休憩所で休んで未明に頂上を目指す計画だった。
6合目を過ぎると草木がぐっと少なくなり、7合目付近で早くも辺りは真っ暗になった。
ごつごつとした岩の斜面が容赦なく体力を奪っていく。
日頃の運動不足のせいで、息が続かなくて、休んでは進み休んでは進みの繰り返しになった。
普段都会の喧騒の中で暮らしていると、耳が痛くなりそうな富士山の静寂は独特で、暗闇に囲まれてるせいもあるだろうけど、とても孤独で心もとない気持ちにさせられた。
「なんか話ながら登ろうぜ」
誰かが言った。
「怖い話でもする?」
「この状況で?お前馬鹿なの」
「怖い話でもいいから、気晴らしさせてくれー」
「ちょうど富士山にまつわる怖い話知ってる」
「なになに」
「富士山を登っている時に、挨拶してはいけない人がいるっていう都市伝説知ってるか?」
「知らない」
「・・・一説によると富士山の漢字は本当は不死山だったっていう話があるんだ。死なないの不死ね。もともと富士山は魂を現世に繋ぎ止めるための霊山だった。だから、死者が成仏せずにさまよい続ける場所なんだ。彼らは自分の死に気づくこともなく、富士山を登っては下り登っては下りを繰り返す。彼らに出くわして、挨拶してしまうと、連れていかれる。そういう話・・・」
真っ暗闇で聞く怪談話は不気味だった。
「もっと早く言えよ。もう挨拶してるかもしれないじゃん!」
「でも、富士山て登りと下りで道が別だからあんまり登山客同士で挨拶しないんじゃない?」
「のぼりくだりで挨拶するとは限らないだろ」
「俺、もう頂上まで誰にも挨拶するのやめるわ」
あーでもないこーでもないと言い合う友人達の話を聞いて、僕はクスリと笑った。
くだらない会話に気が紛れ疲れも吹き飛んだ。
会話は途切れることがなかった。
けど、不思議だった。
頭がボーッとしているからか、だんだんと誰が今しゃべっているのかわからなくなってきた。
「まだ着かないのかよ」
「さっきから同じことばかり言ってる」
「俺達どこに向かってるんだっけ?」
「頂上」
「違うよ。頂上は通過点でしかない。俺達は彼岸を目指してたんだろ」
「あぁそうだ。彼岸だ」
「彼岸だ」
なぜだろう、全部同じ声に聞こえる。
それに会話の意味がわからない。
その時だった。
「キミ、危ないぞ!!」
大声にハッとした。
足元に地面がなかった。
いつの間にか登山道を外れ、大きな岩の上に立っていた。
あと一歩足を踏み出していたら大岩から滑落して命を落としていたかもしれない。
さっきまで途切れなかった友人達の会話がピタッとやんでいた。
周りを見回すと、友人達の姿はなく僕は一人きりだった・・・。

9合目で無事合流した友人達に、後で聞いた話では、7合目あたりで僕だけみんなからはぐれていたらしい。
富士山の怖い話など誰もしていなかった。
僕が一緒に登って話していた彼らは何者だったのだろうか。
空気の薄さのせいで幻を見たのだろうか。
いや、もしかしたら僕は、自分でも気がつかないうちに「富士山で挨拶してはいけない人」に挨拶をしてしまっていたのかもしれない。

これから富士山に登る人は、どうか気をつけて欲しい・・・。

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