【怖い話】【心霊】夢遊病 #186

 

朝起きると服が汚れている、足に泥がついている。
そんなことが最近、頻発していた。
もしかしたら、自分は夢遊病で、夜中に眠りながら歩いているのではないか。
そう疑った。
就職活動を控えているストレスのせいかもしれないと思い、病院に行くことも考えたけど、その前に本当に夢遊病なのか確かめたかった。
カメラ好きの友達から頭に取り付けて撮影できるウェアラブルHDカメラを一日だけ借りて、眠っている自分の視点を録画することにした。これで本当に夢遊病なのか確かめられるはずだ。
その夜。録画ボタンをオンにして、眠りについた・・・。

翌朝。起きると服も足も汚れていた。
さっそくパソコンに録画データを取り込み、昨夜の映像を確認してみた。
薄暗い画面に天井と調光にした照明が映し出された。眠っている自分の視点をカメラを通して見て、昨夜の出来事を追体験するのは不思議な感覚だった。しばらくは何も起きない。
早送りにする。
突然、映像に動きがあった。
布団をはねあげて起き上がったらしい。
自分のことなのに、まったく記憶がないので、信じられない思いだった。
起き上がると、フラフラと歩きながら部屋を出た。暗い廊下を進み、電気もつけずに階段を降りていく。
自分の主観の映像は、まるでFPSのシューティングゲームか、POVのホラー映画のようだった。
靴も履かず、玄関を抜けて、外に出る。
深夜のひとけのない通りをフラフラと進んでいく。
いったいどこへ向かっているのか。
自分のことなのに何もわからない不安は、とても恐ろしかった。
背中を冷や汗がつたうのを感じた。
映像の中の自分は角をいくつか曲がり、おもむろに舗装された道路から横の雑木林の中に入っていった。
枝や葉におかいまいなく藪の中を突き進む。
服や足の汚れの理由がわかった。
覚束ない足取りながら、どこか目的地に向かっているように見えた。
見えない糸に引っ張られているかのようだ。
やがて、開けた場所に出た。
眼前の暗闇の中に浮かび上がる一軒家。
窓は割れ、屋根瓦は落ち、崩れた壁から室内がのぞいていた。
僕は、この荒れ果てた廃墟を知っていた。
この界隈ではちょっと有名な場所だった。
と、廃墟の玄関に、人影のようなものが映っているのに気がついた。
僕はその人影に向かって歩いていく。
人影の正体は僕と同年代くらいの女の子だった。
しかし、モニターにアップになった女の子の姿は見て、僕は思わず悲鳴を上げた。
目があるはずの部分は真っ暗な穴しかなく、引き裂けた頬から歯がのぞいている。髪の毛は半分抜け落ちていて、頭蓋骨がところどころにむき出しになっていた。
いったいこの化け物はなんなのか。
モニターから目を逸らしたいのに、逸らせなかった。
化け物は僕の手を取り、家の中に誘う。
僕は二階の一室へ連れていかれた。
落ち葉にうもれかけたベッド、綿が飛び出たぬいぐるみ、割れた鏡、勉強机。
そこはかつて女の子の部屋だったに違いない。
僕は勉強机の横の椅子に座った。勉強机には雨風にさらされボロボロになった参考書が並んでいた。
化け物が席につき、参考書を開いた。
この家は、かつて、大学受験を控えた一人娘が自殺した家として近所で知られていた。両親はよそへ引っ越してしまい、家だけが買い手もつかず、ずっと残されていた。
夢遊病の理由はわかった。僕は夜な夜な化け物の家庭教師をしに行っていたらしい。
でも、どうして僕なのか。就職活動で追い詰まり弱った心が、女の子の苦しみの波長と合ってしまったのか。
2時間ほど僕は化け物に勉強を教えると、自宅に戻っていった。
布団に入りしばらくして映像は途切れた。
身体中がぞわぞわした。
今見た映像は、まぎれもなく昨夜、僕の身に起こったことなのだ。
今夜もまた眠ったらあの化け物に呼ばれてしまう。
絶対に眠るものか。
その夜、エナジードリンクをがぶのみして僕は徹夜に備えた。
エナジードリンクのおかげでまったく眠気を感じることはなかった。
うろうろと部屋を動きまわり止まって休まないようにした。
夜が明け始めた頃、強い眠気に襲われた。
ふんばりどころだ。
顔を冷水で洗った。
眠気を完全に取り払うため、ランニングに行くことにした。
靴を履いて、玄関を開けた。
朝日が目に眩しい。
その時、日光が何かに遮られた。
逆光の中、人影が立っていた。
このシルエットは・・・。
起きていても無駄だったということか。
化け物は僕を迎えに来た。

-ショートホラー