【怖い話】【心霊】コインロッカー #185
2017/09/11
家の最寄り駅に、怖い噂があった。
駅のコインロッカーの99番に手紙を入れておくと死者から返事があるというのだ。
いまや有名な都市伝説になっているコインロッカーベイビーの話をもじって、誰かが噂を広めたのだろう。
ある日のこと。高校のクラスメイトの女子数人から、噂を確かめてみようと誘われた。
どうせ帰り道だから付き合うことにした。
ベッドタウンなので駅はそれなりに広い。
コインロッカーは何ヵ所かに設置してある。
ようやく目当てのコインロッカーを見つけた。
人の流れから外れた袋小路にあり、なんだか寂しい場所だった。
女友達の一人が用意していた手紙をコインロッカーに入れ、鍵をかけた。
狙っている先輩の好みの女子のタイプについて手紙で聞いたという。
アホくさと内心思っていたけど、そこは私も女子。
「返事くるかなぁ」と適当に相槌を打つ。
そこで問題が発生。
誰もどうやって返事が来るのか知らなかった。
1時間ほどカフェで時間をつぶしてコインロッカーに戻ってきたけど、手紙はそのままだった。返事らしきものはない。
長期間のロッカー代を払うほどの熱意は誰にもなかった。
手紙を回収し帰ることにした。
ところが数日後。
手紙を用意してた女友達が「返事きたよ!」と教室に駆け込んできた。
あの時のメンバーが集まる。
返事の手紙は自宅のポストに直接投函されていたらしい。
差出人も切手もなかった。
「それで、何て書いてあったの?」女友達の1人が言った。
「みんなで見ようと思って、まだ開けてない」
「じゃあ、コインロッカーの返事とは限らないじゃん」
「このタイミングで、こんな変な手紙がきたんだよ、絶対そうだよ」
女友達は、手紙の封を切って、中から一枚の紙を取り出した。
みんなが固唾を飲んで見守る。
私も緊張を隠せなかった。
女友達が折られた紙を開いた。
真っ白い紙に、みみずがのたくったような線がいくつも書かれていた。
鉛筆で書かれたようだけど、文字は判別不能だった。
「なにこれ・・・」
言葉がなかった。
わけがわからない手紙としかいいようがないけど、なんだか、まがまがしいオーラを手紙から感じた。
みんなも同じ感覚だったのか、表情が歪んでいた。
「これ持ってないほうがいい気がする」
メンバーの一人が言った。
誰も反対しなかった。
手紙はライターで燃やすことにした。
それで終わりのはずだった。
ところが、その数日後。
おかしな手紙が送られてきた女友達が失踪した。
最後に目撃されたのは駅。
しかも、99番のコインロッカーの前にたっていたという。
彼女がそこで何をしていたのか、誰も知らなかった。
失踪から1ヶ月経っても彼女は戻らなかった。
誰もあのコインロッカーのことは口に出さなかった。
みんな恐れている。彼女はコインロッカーに手紙を入れたせいで恐ろしい目にあったのではないかと。次は自分の番なんじゃないかと。
失踪から数ヵ月が経ったある日。
駅のホームに向かって歩いていると、視界の隅に、違和感があった。
例のコインロッカーの前に立つ人影があった。
背中しか見えないが、失踪した女友達に似ている。
・・・いや、彼女に違いない。確信があった。
私は人混みをかき分けて走った。
だけど、人混みを抜けて、コインロッカーの前についた時には、彼女の姿はどこかへ消えていた。
ただ、99番のロッカーが少しだけ開いていた。
口を開いて獲物を待つ化け物のように・・・。
開けたらダメだ。
頭は警告を発する。
けど、自分の意思に反して、私の手はロッカーに伸びていた。
ゆっくりと開けていく。
中には一枚の紙が入っていた。
死者からの返事・・・。
失踪した女友達からのメッセージかもしれない。
震える手を紙に伸ばした。
「ダメ」
後ろから声が聞こえた気がした。
ハッと我に返り、手を引っ込めた。
振り返っても誰もいなかった。
再びロッカーに向きなおる。
ロッカーの奥の暗闇から、何かがこちらを見つめているような気がした。
ロッカーから溢れてくるまがまがしい気配が私を包みこんでいる感覚があった。
私はロッカーのドアを叩きつけるように閉めて鍵をかけた。
鍵は駅のごみ箱に捨てて処分した。
もっと早くこうすべきだったのかもしれない。
あの時聞こえた声は誰だったのか。
女友達だったのだろうか。
あの声がなければ、私は今頃どうなっていたのだろう・・・。
想像すると今でも恐ろしい。
近頃はコインロッカーの噂を聞くことも少なくなり、ようやく私も悪夢を見なくなってきた。
だけど、先日、急行電車に乗ろうと急いでいると、女子高校生らしき集団が99番ロッカーの前に集まって騒いでいるのを見かけた。
「このロッカーだよ」
「ほんとにあるんだ」
怖い噂を確かめにきたようだ。
だけど、残念。
そのロッカーはもう開くことはないの・・・と思って、私は目を疑った。
・・・鍵はないはずなのに、ロッカーが開いていた。