【怖い話】【心霊】第184話「お盆の怖い話」

2017/09/11

うちの実家には、少し変わったお盆の風習があった。
ご先祖様が帰ってくるために、なすやきゅうりに割り箸を刺して牛馬を作るのは同じなのだが、わが家ではその割り箸を折ってしまうのだ。
長さを整えるためではない。折った部分を残したまま飾る。
他の家ではやっていないので小学生の私は不思議だった。
牛馬の意味を知ってからは余計に引っ掛かった。
割り箸を折ってしまったらご先祖様が帰ってこれないのではないかと心配したのだ。
おばあちゃんに、どうして割り箸を折るのか聞いたことがあるけど、おばあちゃんは苦い顔をするだけで、何も教えてくれなかった。
そこで、ある年、私はおばあちゃんに気づかれないよう、こっそり割り箸を刺しなおした。これで、ご先祖様もちゃんと帰ってこれる、そう思った。
だけど、それは大間違いだった。
その夜、布団で眠っていると、深夜に目が覚めた。
台所の方から物音がした。
布団を出て台所に向かった。
真っ暗なはずの台所に一筋の光が見えた。
冷蔵庫が開いていて、その前にうずくまる小さな人影があった。
弟だと思い名前を呼んだ。
返事はなかった。
こんな夜中につまみ食いなどしたら、おばあちゃんに私がなんて怒られるかわかったもんじゃない。
私は弟を止めようと肩に手をかけようとした。
その瞬間、人影が振り返った。
それは弟ではなかった。
いや、人ですらなかった・・・。
鬼・・・。
血走った目。怒りにひきつる頬。
口の周りは真っ赤に染まっていて、手に生肉を握っていた。
そいつは奇声を上げると、霧のように姿を消した。
食い散らかしたお肉と血が冷蔵庫の明かりに照らされていた。
私は悲鳴を上げた。気を失わなかっただけよかった。
悲鳴を聞きつけ、おばあちゃんが駆けつけた。
現場を見たおばあちゃんは青い顔をしていた。
「キザブロウ・・・?」
そう言うとおばあちゃんは血相を変えて、玄関に走っていった。
そして、玄関からなすときゅうりの牛馬をとって帰ってくると、私の目の前につきつけた。
「あんたがやったのかい?」
はじめは何を言っているのかわからなかったが、どうやら割り箸のことらしい。
コクとうなずいた。
いきなりおばあちゃんの平手が飛んできた。
「ばかたれが」
わけがわからなかった。
さきほどの理解不能なできごとすら脳で処理できていないのに、なぜぶたれるの?
私はワンワンと泣いた。
すると、おばあちゃんは私を抱き締めてくれた。
「もう大丈夫だから。二度とあんな真似しちゃだめだよ」
おばあちゃんの細い腕の中はとても暖かかったのを覚えている。
やがて落ち着いた私におばあちゃんは昔話をしてくれた。
私の家に古くから伝わる物語だという。
おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんが生きていた時代に、キザブロウという男の子が生まれた。
キザブロウは生まれつき心を病んでいた。
残忍で非情な性格で、それは大きくなっても直らなかった。
鬼の子と呼ばれるようになった。
野山の動物をおもしろ半分に殺しては、死体で遊んだ後、喰らった。
キザブロウの狂気は動物だけですまなかった。
近所のものや家族が忽然と消えた。
ご先祖様は村人と相談しキザブロウを討つことにした。
寝込みを襲い農具でめった打ちにした。
キザブロウは死の間際、ご先祖様に呪いの言葉を吐きかけた。
その年以来、お盆になると、人が死んだり、病が村に広がったり田畑が荒らされたりするようになった。
キザブロウの祟りだと信じて誰もが疑わなかった。
翌年から、なすときゅうりの牛馬の足を折るようになったのだという。
足がなければキザブロウは帰ってこれないと考えたのだ。
そして、実際その年以来、お盆に異変は起きなくなったのだという・・・。

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