【怖い話】【心霊】第181話「我が家の秘密」

2017/09/11

 

私達一家にはある秘密がある・・・。

始まりは1年前に遡る。
隣の家に高齢の夫婦が越してきた。
都内で暮らしていたご夫婦で、老後の余生を自然が多い郊外で暮らしたいと思って、引っ越してきたのだという。
誰かが越してくると聞いた時は不安だったけど、話してみるときさくな人達で、隣人トラブルなど起きそうもなくて安心した。
旦那さんはよく近所を散歩する姿を見かけた。奥さんはよく「作りすぎたから」と惣菜やおかずを持ってきてくれた。特に奥さんの作る料理はどれもあじつけが抜群で、旦那や3人の子供たちは、差し入れがない日は「今日はないの?」と露骨に残念そうな顔をした。
私は地元が遠いので、ご夫婦に故郷の両親の面影を重ねていた気がする。
何のトラブルもなく親交は1年近く続いた。
異変に気がついたのは主人だった。
「なぁ、最近隣の旦那さん見かけなくないか
?」
「そう?」
旦那さんとは偶然、公園などで会うだけなので、特に意識したことはなかった。
「いや、前までは俺が朝出勤する時に庭いじりしてたりしたんだけどな・・・」
「体調悪いのかしら?今度奥さんに聞いてみる」
その翌日。奥さんが肉じゃがを差し入れしてくれた。それとなく旦那さんのことを尋ねると「夏バテなのよ」という。
夕飯の時、主人にそう伝えると、主人も納得したようだった。そんなことより子供たちと差し入れの肉じゃが争奪戦に夢中だった。
それにしても不思議だ。どうやったらあんな旨味を出せるのだろう。隣の奥さんからあじつけを教えてもらったのに、どうやっても私にあの味は出せない。使っているスーパーも同じだから材料の差でもない。もはや才能としか言えない。
その時だった。サイレンの音が聞こえ、家のすぐ近くで止まった。
「救急車?お隣かな」
「いや、あの音はパトカーじゃないか」
私と主人は家を出た。
隣の家の前に何台ものパトカーが停まっていて、ちょうど警察の人が家の中から奥さんをともなって出てきた。
パトカーに乗せられる寸前、奥さんと目があった。
奥さんは笑っていた。見たこともないくらいねちゃっとして不気味な笑みだった。私は目を疑った。
刑事さんが、事情聴取に来た。
隣の旦那さんのお姉さんが、2ヵ月も弟と連絡が取れないことを不審に思い、家を訪ねると、怪しい血痕を見つけ警察に通報したのだという。
奥さんが旦那さんを殺害して遺体を隠したのではないかと警察は考えているようだ。
「・・・ただいくら探しても遺体が出てこないんですよ。遺体がなければ立件のしようがないんです・・・高齢者一人じゃ、そう遠くへは隠せないと思うんですが・・・」
刑事さんはそう言って首をかしげた。
それを聞いた私は青ざめた。主人の顔を見ると、どうやら同じ考えのようだ。
奥さんが作った絶品の肉じゃが・・・。ここ最近の差し入れは肉料理が多かった。
その晩、私と主人は代わる代わるトイレで吐いた。
朝方まで主人と相談して、警察には黙っていることにした。真相を話せば私達一家が、どんな目で見られるか。特に子供の将来を考えるなら絶対明かしてはならないと思った。
子供たちにも何も話さないことにした。
それが彼らのためだ。
ただ、最近、子供が日に日にうるさくなってきた。
「隣のおばさんの料理が食べたい」、と。

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