【怖い話】【SF】第178話「コントローラー」

2017/09/11

 

ある日、高校までの通学路を歩いていたら、ゲームのコントローラーのようなものが道の真ん中に落ちていた。
グリップできる部分があって、様々なボタンが配置されている。方向キーのようなスティックもついている。PS4のコントローラーに似ていなくもないけど、もっと歪でSFに登場するエイリアンが使っていそうなデザインだった。
ゲーム機のコントローラーだとしても、僕の知らない機種のものだった。
コントローラーを拾ってみた。
手にずっしり重い。
適当にボタンを押してみた。
ブオンという音がして、グリーンのライトが点灯した。
どうやらコントローラーが起動したらしい。
一体何のコントローラーなんだろう。
そんなことを考えながら方向キーをガチャガチャ操作していると、後ろから「ガチャン!」と大きな音がした。
振り返ると同じ高校の男子生徒が乗る自転車がガードレールにおもいきりぶつかっていた。
男子生徒は構わず、自転車をこぎ始めた。
フラフラと酔っ払い運転みたいに蛇行しながら僕を追い抜いていく。
その時、僕は奇妙な一致に気がついた。
僕が適当に操作していたコントローラーと、男子生徒の動きが連動しているような気がした。コントローラーの方向キーのようなスティックを右に倒すと男子生徒も右に、左に倒すと左に動いた。
僕はパッとコントローラーから手を離した。
すると男子生徒はピタッと自転車を漕ぐのをやめた。むろんペダルを漕がなければ前へは進まない。バランスを崩した自転車は横に倒れた。男子生徒は顔を打ったらしく顔中血だらけだった。
「大丈夫!?」
僕は転倒した男子生徒に駆け寄った。
虚ろな目をしている。かなりヤバそうだ。
救急車を呼んだ方がいいかもしれないと思ったけど、さきほどの現象が気になってしまった。もし今からコントローラーを操作して男子生徒に動きがあれば、このコントローラーはこの男子生徒の動きを操作できるコントローラーということになる。
僕はコントローラーをガチャガチャと動かしてみた。
すると、男子生徒は急に立ち上がり、叫び声を上げながら走り出した。
そして、そのまま車の行き交う大きな通りへ飛び出していった。
ドン!
鈍い音がして、男子生徒はトラックにはね飛ばされた。
血だまりが地面に広がった。
誰かの悲鳴があがった。
このコントローラーはやはり男子生徒の動きを操作していたようだ。
けど・・・こんなはずじゃなかった。
・・・僕が殺した?
そんな馬鹿な・・・。
僕は怖くなってコントローラーを放り投げようかと思った。
・・・けど、ふと思い直した。
もし他の人も、このコントローラーで操作できるのだとしたら?
僕はものすごい力を偶然手に入れたのかもしれない。
僕は鞄にコントローラーをそっとしまって、何食わぬ顔でその場を離れた・・・。

それから、慎重に色んな実験をしてみて、いろいろわかってきた。
コントローラーにはセンサーがついていて、そのセンサーを向けてコントローラーを起動すると、センサーの向きにいた人間を操作することができる。センサーの届く範囲はおよそ70メートル。コントローラーの電源を切らない限りは、その人間の操作は解除されない。放っておけば、その人間はずっと死んだように固まったままだ。
操作方法は他のゲーム機に似ている。左スティックで移動。ボタンを押すと色んなアクションをする。発動するアクションは人によって違う。ボタンと右スティックを組み合わせることで、ある程度、その人間の手足を自由に動かせる。
会話をさせることはできない。
コントローラーで操作されていた人間に、その時の記憶は残らない。
ここまでのことを解明するために、何人もの人間で実験が必要だった。
怪我をさせてしまった人もいる。
けど、拾った時のような大きな失敗はしていない。あの時の男子生徒は結局、亡くなってしまった。良心の呵責を覚えないわけではないけど、それよりも未知の力を手に入れた興奮の方が強かった。
秘密の力。このコントローラーがあれば、誰だって僕の思うままに操れる日も近い。神に近づいた心地がした。

その日も、ひとけのない雑木林で、高校の生徒を使って操作練習していた。
目下の目標は格闘ができるようになることだ。今後色々なトラブルが起きることを考えたら、闘う操作をマスターしておくのはマストな気がした。
一度、ゲーセンにたむろしていた連中に、学校の不良を操作して挑んでみたけど、まるで歯が立たなかった。状況を見ながらだとコントローラー操作がどうしても後手に回る。
自由意思を持つ人間の脳の指令速度にはなかなか叶わない。
そこで直感的な操作で様々な格闘動作をさせることができるようになるまで繰り返し練習していた。
反復練習のおかげで、だいたい狙い通りの動きをさせることができるようになってきた。
いよいよ来週は実践に移ろう。
そう思って帰り支度を始めた。
雑木林のなかで男子生徒の操作を解除すると、どうして自分がこんなところにいるのか不思議そうにしながら家に帰っていった。
僕も家に帰ろうと思って、目立たない場所に置いていた自転車まで戻っていた時、僕は足をすべらせて転んでしまった。
ブオン。
転んだ拍子に、誤ってコントローラーを起動してしまった。
センサーは自分の方に向いていた。
身体が石になったように動かなくなった。
・・・やってしまった。
そう思ったのが僕の最後の記憶だ。

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