【怖い話】【心霊】第137話「湖の怖い話」
2017/09/11
この前、彼女と県内のS湖にドライブにいった時に、怖い体験をした。
S湖は、池かと思う小ささで、知名度も低い。湖畔に連なる土産物屋も廃れていて、閑古鳥が鳴いている。
他の場所にすればよかったね、そんな話をしながら彼女と湖畔を歩いていると、貸しボートという看板が見えた。オールを使って漕ぐシンプルなタイプだった。
「せっかくだから乗る?」
俺達は看板の案内に従って桟橋を歩いて進んだ。
突端に浅黒い肌をした歯の欠けたおっちゃんが1人で座っていた。どうやら係の人らしい。ボートに乗りたいと告げると、ぶっきらぼうに「1000円」と手を出してきた。客商売らしからぬぞんざいに腹が立ったけど、我慢して1000円を渡す。
おっちゃんはもそもそとした口調でボートの漕ぎ方を説明した。
説明が終わり俺達がボートに乗ろうとすると、おっちゃんがおもむろに湖の対岸を指差した。
「どこ行ってもいいけど、ここから真向かいの岸にだけは近づくな」
今までの、もそもそとした話し方から一転して強い口調だった。
「はい」
俺はそう言って、彼女をボートに乗せて、オールを漕ぎはじめた。
割と快調にボートは進んでいった。湖上には爽やかな風が吹いていて、湖畔に漂っている寂れた暗い空気が吹き飛んだ。
「気持ちいいね」
彼女の機嫌もよくなって俺は満足だった。
湖は小さいので、気がつくと、あっという間に対岸近くまで来ていた。
「対岸には行ったらダメって、おじさんいってなかった?」
「なんか理由言ってた?」
「何も言ってなかったけど・・・」
それから、俺は何を思ったのか、岸にボートを近づけていった。彼女に怖いもの知らずと格好つけたかったのか今となってはわからない。
「大丈夫?」
彼女は不安そうに眉をひそめた。
「大丈夫大丈夫」
今思えば、熱に浮かされたような状態だった気がする。
いつの間にか、手を伸ばせば岸辺に生えた木の枝に届きそうな距離まで来ていた。
「何もないじゃんか」
俺は鼻で笑うように言った。
その時、彼女が俺の背後を指差した。
「ねえ、あれ」
振り返ると、岸辺に小さな社が祀られているのが見えた。使われている木は腐って朽ちかけている。ずいぶん古そうだ。半ば雑木林に埋もれていて、苔に覆われていて、もはや誰もお参りなどしてなさそうに見える。
その社を見ていると、胸がざわざわした。
快晴だというのに、社の周りだけ暗い空気に包まれているようだった。
「ねえ、戻ろ」
彼女が言った。
俺も一刻も早くその場を離れたかった。本能的に危ない場所だと感じたのかもしれない。
桟橋に戻るまで俺達は一言もしゃべらなかった。心なしか行きよりボートを漕ぐオールが重たくなった気がした。
桟橋にボートをつけると、おっちゃんがやってきた。おっちゃんは俺の顔を見るなり、不快そうに顔を歪めて言った。
「向こう岸に行ったのか?」
「すいません、たまたま」
僕は言い訳するように言った。
「さっさと帰れ」
おっちゃんは怒って、俺達は追い払われるように桟橋を後にした。
車に戻る前に駐車場のトイレに寄った。
用を済ませて彼女が出てくるのを待った。
スマホでニュースサイトを流し読みしていたら、空いていている左手に彼女の手が触れる感触があった。
スマホの画面から顔をあげると、目の前に土気色をした見知らぬ女の顔があった。髪はずぶ濡れで水がポタポタと滴っていた。枯れ葉や泥が顔中についていた。
「お待たせ」
彼女の声にハッとすると女は消えていた。
・・・今のは何だったのか。まぼろし?
「ちょっと手どうしたの?」
彼女に言われて手を見ると、泥や藻や水草がべったりまとわりついていた。
恐怖で身が凍る思いがした。
最近、霊感があるという女の子と偶然知り合ったのだが、俺には入水自殺した女性の霊がついているので、水難事故に気をつけた方がいいらしい・・・。