第127話「タワーマンションの怖い話」

私が住んでいるのはタワーマンションの25階だ。
曇ってなければスカイツリーや富士山を一望できる眺めの良さ。コンシェルジュつきのエントランス。万全のセキュリティ。
かなり高い買い物だったけど、とても満足していた。後は旦那さんだけねと親戚にはやっかみ半分馬鹿にされているけど、正直、私は独身のままでいいし、マンションを購入して初めて自分のキャリアの成功を実感することができた。
だけど、そんな夢のマイホームで、恐ろしい体験が待ち受けているとは思いもしなかった。

その日は仕事が遅くなり、帰ったのは夜の12時近くだった。寝る前に飲むつもりでワインのボトルを買ってきたので冷蔵庫に入れていたら、奇妙な音に気づいた。

カラカラ・・・カラカラ・・・

なんだろう?そんな音を出すものが思い浮かばなかった。音はバルコニーの方から聞こえていた。カーテンを開き、バルコニーに出てみた。

カラカラ・・・カラカラ・・・

コンビニのお弁当の空き箱が風で動く音だった。
・・・なんで、こんなところにお弁当の空き箱が?
強烈な違和感を覚えた。
風で舞い上げられた?25階まで?
そうに違いないと頭で理解しながら、釈然としない気持ちが残った。
誰かがここでお弁当を食べたのではないか?
・・・まさか。
思い浮かんだのは、屋上からロープを使ってタワーマンションの上層階に侵入する泥棒のニュースだった。
私は、慌てて、侵入されたあとがないか、盗まれたものがないか、確認した。
けど、通帳も無事だったし、特に盗まれたものはなかった。
・・・私の気にしすぎか。
理屈で説明できない奇妙な出来事を前にして、心が動揺してしまった。
よく考えれば、ロープで屋上から降りる方がよほど非現実的だ。ワインを飲んで寝る頃には、そのことはすっかり忘れてしまっていた。

けど、その翌日。仕事から帰ると、またカラカラという音がバルコニーから聞こえた。
今度は、牛丼チェーン店の空き箱がバルコニーにあった。
2日も連続でこんな偶然が起きるだろうか。
ゾッと寒気が背中を走った。

週末。コンシェルジュの人にお願いして、警備会社を呼んでもらい、リビングからバルコニーの窓に向けて監視カメラを設置してもらった。警備会社の人は私がいくら説明しても怪訝そうにしていたが、怪奇現象の正体がわかるならかまうものか。

カメラは動体センサーがついているので、動くものがあれば、録画してスマホに通知をくれる。
カメラを設置した翌日、会社でパソコン作業をしながらスマホが気になってしかたなかった。

しばらくは何もなかった。
やっぱり気にしすぎか。そう思ってた矢先、通知が突然来た。
慌ててスマホを確認する。ジラジラして荒い監視カメラの映像が映し出されていた。
けど、特に映像に変化は起きなかった。
しばらく見続けていたけど、何もおかしなものは映らなかった。
センサーの感度がよすぎなのだろうか。
安心したような、読みが外れてがっかりしたような、おかしな気持ちだった。
その後は、マンションに帰るまで、通知が来ることはなかった。

マンションに戻ると、その足ですぐにバルコニーを確認したけど、今日は空き箱はなかった。
たまたま、2日連続で風に飛ばされただけだったのかだろうか。
大騒ぎしてカメラなんて買って無駄金だったかな・・・。
少し後悔して、がっかりしてリビングに戻った私は自分の目を疑った。テーブルの上に、ついさっきまでなかったお弁当の空き箱があったのだ・・・。まるで、誰かがお弁当を食べていたかのように。
・・・理解が追いつかない。何が起きたの?
その時、スマホがブルッと通知を送ってきた。センサーをオフにしてなかったので私の動きに反応してカメラが録画を始めたのだ。
スマホの画面をタップして、監視カメラの映像に切り替えた。
映像の中、私の真後ろに、作業服姿の男が立っていた・・・。

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