第118話「山下公園」

2017/09/11

神奈川県横浜市のみなとみらい駅から歩いて10分ほどのところに山下公園がある。
芝生や花畑が海沿いに細長く広がっていて、都会のオアシスとして、休日ともなると、家族やカップルでにぎわっている。
これは、そんな山下公園で私が体験した怖い話・・・。

当時、私はウォーキングに凝っていて仕事が終わった夜半に山下公園をグルッと一周、早歩きで回るのが日課だった。夏場ともなれば海風が心地よくて息抜きにもちょうどよかった。夜になると人かげもまばらだ。
その日も、海沿いの遊歩道をみなとみらい方面に向かって歩いていた。
しばらく歩いていると、前方に人かげが見えた。シルエットからすると女性のようだ。遊歩道と海の境には転落防止用の柵があった。女性は柵に手を置いて海を眺めていた。
私は、女性の横を通りすぎて、そのまま歩いていった。
しばらくして・・・。
ドボン!という音が背後から聞こえた。
まさか!!私は慌てて振り返った。女性のシルエットはなくなっていた。
事故か故意かわからないが女性は海に転落したに違いない。
私は来た道を急いで戻った。
女性が立っていたと思われる場所近くの柵から身を乗りだし女性の姿を探した。
しかし、ただ黒い海が広がるばかりで、人が落ちた波の跡は見当たらない。
・・・その時だった。
突然、私は誰かに足を持ち上げられた。私は抵抗する間もなく柵を軸に一回転して海に転落した。
冷たい水が服の隙間から一気に入ってきた。水を吸った服が重しに変貌した。
溺れる!パニックに襲われた。もがくほど海水を飲み込んだ。
何度も水中に頭が沈んだ。
めまぐるしく動く景色の中に、人かげを見た。
人かげは、柵に手を置いて私を見下ろしていた。
溺れる私を助けようとすることはなく、ただじっと見下ろして・・・笑っていた。
人かげはさっきの女性だった。
水中深くから何かに引っ張られるように身体が重かった。
もう泳いでいられない・・・。
諦めかけた時、振り回した手がたまたま柵に当たった。私は最後の力を振り絞って、柵をつかんだ。
後は無我夢中だった。
もう片方の手でも柵をつかみ、海から身体を引き上げた。
柵を乗り越え、命からがら地面に倒れこんだ時には、女の姿は消えていた・・・。

すぐに警察に連絡して事情を話したが、私を突き落とした女は今日まで見つかっていない。
そもそもこの世に存在する女なのか、正直、自信はない・・・。
後で思い出したのだが、夏場だと言うのに、女性は冬物のコートとマフラーを着用していたのだ。
その日以来、私が山下公園を訪れた時は一度もないのは、いうまでもない。

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