第106話「夜の学校」

2017/09/11

ハッと気がつくと辺りは真っ暗だった。
職員室で中間テストを採点中に眠り込んでしまったらしい。
他の教員は誰も残っていなかった。
どうして誰も起こしてくれなかったのだろう?
残っているのに気がつかなかったのか、気をつかってくれたのかわからないが職員室の電気は全て消されていた。
眠り込んでしまうなんて初めてだ。よほど疲れがたまっていたのだろうか。
真っ暗な職員室は不気味だった。何の音もしない。普段は教員や生徒でごった返している分、余計に静けさが際立っていた。

私は手探りで電気のスイッチまで進んだ。途中、誰かのゴミ箱を蹴り飛ばしてしまったが、直している心の余裕はなかった。

電気パネルのスイッチを入れても電気はつかなかった。
何度やってみてもダメだ。
・・・まさか、停電?
急に不安が込み上げてきた。
夜の学校の不気味さは尋常ではない。

その時だった。
入り口のガラス越しに明かりが見えた。
中庭を挟んだ向かいの校舎の教室の中をゆらゆらと白い明かりが揺れている。
懐中電灯のようだ。

警備員さんの巡回だろう。
停電のことを伝えなければ。
私はそう思って職員室を出た。

長い廊下を進み、角を折れて階段を上がると、明かりが見えた5年3組の教室についた。
すでに教室に警備員さんはいなかった。
巡回してるのだから無理もない。
順番に教室をたどっていけばいつかは会えるだろう。
そう思って一つ一つ教室を見ていった。

5年6組の教室についた時だった。
足元になにかが落ちているのに気がついた。
明かりを消した懐中電灯だった。
警備員さんが忘れていったのだろうか。
おかしいなと思ったが、内心、明かりが手にはいって助かったと思った。

懐中電灯を拾いあげて、スイッチをいれた。
瞬間、目の前に男の顔があった。
肌は紫色で白目を剥いている。
何の感情もない顔つきで私を見つめていた。
私は、絶叫を上げた。

「・・・柏木先生、柏木先生」
誰かに揺り動かされて目が覚めた。
気がつくと職員室だった。
すっかり朝になっていた。
「ダメですよ。学校に泊まりこんじゃ」
そう言ったのは体育の松原先生だった。
・・・夢を見ていたのだろうか。
夢にしてはリアルだった。

「誰だぁ、人のゴミ箱蹴ったヤツは」
松原先生が床に散らばったゴミを拾い集め始めている。
・・・本当に夢だったのだろうか。

それ以来、私はどんなに忙しくても早めに帰るようにしている。

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