第104話「癖」
私の、4歳になる一人娘の初音には、困った癖があります。
人に向かって指を差すのです。
それだけならまだいいのですが、指を差した後、「悪い人」と言います。
言葉を覚えたての子供がやることとはいえ、されて気分のいいものではありません。
初音の癖のせいで、気まずい思いをすることがたびたびありました。
どうして、そんな癖がついてしまったのか私も主人もわからず困惑するばかりでした。
そんな、ある日のことです。初音と一緒に近所の公園を散歩していた時でした。初音がふいに公園のベンチに座る男性を指差しました。
「悪い人」
また例の癖が出た。
私は初音の腕を取り、「ダメだって言っているでしょ!」と強く言いました。
けど、初音は首をかしげるだけで、私が怒った意味をわかっていないようでした。
ため息をつくしかありませんでした。
初音が指を差した人は、どこにでもいる30代くらいの会社員風の男性でした。
ところが、後日、恐ろしいことに、その男性は近所のマンションに住む女性を暴行しようとして現行犯で逮捕されたのです。
「悪い人」
・・・初音には、もしかしたら、善人と悪人を見分ける不思議な力があるのかもしれない。その時、初めてそう思いました。
それからも、初音の癖は、しばしば出てきました。そして、初音が指を差して「悪い人」という人間は、ことごとく何かしら邪悪な心を持っていることがわかってきました。
初音の力は、天からの授け物のような気がしました。きっと、先々、初音はこの力を使って、多くの人を救うのではないか。そう思うと、誇らしくもなりました。
ただ、最近、悩んでいることがあります。
初音が主人に向かって、「悪い人」と指を差すようになったのです。
・・・主人はいったい私に何を隠しているのでしょうか。