第87話「壁男」

駅など、人が集まる場所で、じっと壁を向いて立っている人を見かけたことありませんか?
もし、朝も見たのに、夜帰ってくる時も同じ体勢で立っているのを見かけたら、それは間違いなく壁男です。男といっても女性の場合もあります。

壁男を見かけても、決して声をかけたり顔を見ようとしたりしないでください。
見てしまったら最後。
安心してください、死にはしません。
ただ、あなたが、次の壁男になるだけです。
そう、壁男は伝染する呪いなんです。壁男になると、ずっと壁を向いて立つことしかできなくなります。出現する場所は、ある程度選べますが、壁男であることから逃れる術は、別の誰かを壁男にするしかないのです。

壁男を見つけたからといって、警察や駅員さんに通報しても無駄ですよ。おそらく見えているのはあなただけですから。「誰もいないじゃないか」ということになりますよ。壁男は、見える体質の人と見えない体質の人がいるんです。

最近は、危ない人に関わりたくない人が増えて、壁男も苦労しています。早く呪いから抜け出したいのに1ヶ月も2ヶ月も誰も声をかけたりしてくれないことなんてざらです。だから、壁男も工夫し始めました。うずくまって調子悪いフリをしてみたり、大声を出してみたりね。
気をつけてくださいね。いい人ほど、壁男の餌食にされやすいですから。

ところで、もうお気づきかもしれませんが、この文章が読めるあなた。
あなた、壁男が見える体質の人ですよ。気をつけてくださいね。もし壁男になりたくないなら、壁に向かって立つ人を見かけても、興味本位で近づかないことです。

こんな文章を載せたら、もう誰も近寄る人間なんていないって?
ふふふ、そうとも限りませんよ。人間の好奇心っていうのは限りがないですからね。本当かどうなのか確かめたくなるものじゃないですか。

興味のある方はお待ちしてますよ。私、都内沿線のどこかの駅で壁を向いて立ってますから。

-ショートホラー