心霊ホテル #078

2017/10/25

 

これは先日、大学の同級生4人で旅行に行った際、宿泊先のホテルで体験した怖い話です。

ホテルに到着した時には4人ともくたくたに疲れていました。
4人それぞれが行きたいところを出し合って回ろうというプランだったのですが、
4人の行きたい場所がそれぞれ離れた場所にあったので、移動だけでかなりの体力と時間を使うことになってしまったのです。
部屋に荷物を置くと、もう十分遊んだから、あとは温泉に入って寝ようという話になりました。
温泉に入ってさっぱりすると、さっそく布団に入りました。
私たちが泊まっている部屋は和室で、ちょうど4人の布団が横並びになっていました。
明日もみっちり予定が入っていましたので、少しでも身体を休ませようと、無駄話をすることもなく、すぐに電気を消しました。

電気を消して、何分くらい経ったでしょうか。
うつらうつらとしていると、どこからか女の人の声が聞こえてきました。
「やめてよ。嫌だって・・・」
ささやくような声でした。声は上の方から聞こえてきていました。
顔だけ上げて周りを見ると、他の3人の寝息が聞こえてきました。
もうみんな寝てしまったようです。
こんなことくらいで起こすのも悪いので、私はそのまま寝ることにしました。
すると、また上の方から声がしました。
「嫌だって・・・」
どういう類の声なのかわかって、私は一人で苦笑するしかありませんでした。
その後も女の人のささやくような声が続きました。
私は、頭からすっぽり布団に入って、何とか声を気にしないで寝ようと思いました。
しばらくすると、よほど疲れていたのか、遠くで声は聞こえるのですが、まどろみが訪れてきました。
その時でした。
ガチャン!とガラスが割れるような音が響きました。
反射的にバッと起き上がりました。
他の3人は寝たままです。
「いやだ!やめて!お願い!」
懇願するような悲痛な女の人の声。それから、ドン!バン!と物がぶつかるような音がしました。ただならぬことが上階の部屋で起きているのだと思いました。
「ねえ、ねえ!」私は隣の布団で寝ている子を揺すって起こしました。
「うん?」まだ寝ぼけているその子に事情を説明して、二人で耳をすませました。
すると、不思議なことに声はぴたっと止まってしまったのです。
「気のせいじゃないの?」迷惑そうな顔をして言う隣の子に、「本当に聞こえたんだってば」と私はいいました。
「勘弁してよ。早く寝よ」そう言って隣の子は布団に戻りました。
私は、もやもやとした気持ちのせいで眠れなくなってしまいました。
しばらく布団でじっと耳をすませていると、また、声が聞こえてきました。
「お願い!やめて!お願い」
女の人の叫び声にモノが壊れるような音。
起き上がってみると他の3人は相変わらず眠ったままでした。
こんな大きな音がするのに、どうして眠っていられるのか不思議でした。
起こした途端、声が止んでしまうのは嫌だったので、もう他の子を起こしませんでした。
「いや!やめて!助けて!」
はっきりそう聞こえました。やはり、何か起きているのだと確信しました。
だけど、どうしたらいいのかわかりませんでした。
フロントに電話して対処を頼むべきなのだと思うのですが、自分の勘違いだとしたら嫌だったのと、厄介事に関わりたくない気持ちがありました。
「お願い!やめて!」懇願するような女性の声に私は勇気を出しました。
同じ女性として、放っておけないという気持ちが最後には勝りました。
私は、布団を出ると、内線電話でフロントを呼び出しました。
「はい、フロントです」と男の人の声が聞こえました。
「すみません。×××号室に泊まっているものなのですが、上の階の音がうるさくて、その、何かあったみたいなんですけど・・・」
なんと説明したものかわからず中途半端な感じになってしまいました。
すると、フロントの男性から思いもしなかった返事がかえってきました。
「お客様がお泊りの部屋の上階は、現在、改装中ですので、どなたも宿泊しておりませんが」
私は絶句しました。誰も泊まってない・・?だとしたら、あの声は・・・。
私は受話器を持ったまま振り返りました。
その時、また、女の人の声が聞こえました。
「助けて!」
私は受話器を取り落としました。
その声は、3人が寝ている寝室から聞こえていたのです。
「助けて!」
今度は私がいる居間から聞こえました。
「助けて!」
今度はお風呂場の方から。
一体、何なの・・・。この部屋、おかしい・・・。
私はパニックを起こしかけていました。
とにかくフロントの人に助けを求めようと受話器を拾い上げました。
「助けて!」
フロントに繋がっていたはずの受話器の向こうから女性の叫び声が聞こえました。
覚えているのは、そこまでです・・・。

気がつくと目の前に同級生3人の顔がありました。
目を凝らすと明るい光が見えました。どうやら朝になったようでした。
「寝相悪すぎ」と3人は笑っています。
私は電話器の前で眠っていたのです。おそらく気を失っていたのだろうと思います。
いったい昨日の夜の出来事はなんだったのか・・・。
3人に事情を説明しても、「疲れて、寝ぼけていたんだよ」と信じてもらえませんでした。
フロントで確かめてみましたが、昨日の夜、私たちが泊まっていた部屋からの電話はなかったと言います。
ですが、私にはあんなリアルな体験が夢だとは思えませんでした。
あの部屋で昔、何かがあったのではないか。そう思えて仕方ありませんでした。
それとなくフロント係の人に尋ねてみると、「そういった事実はありませんからご安心ください」と笑顔で言われました。
でも、その笑顔がなんだかとても不気味に見えて仕方ありませんでした・・・。

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