第62話「最後の晩餐」

8月2日晴れ。

今日の夕ご飯はご馳走でした。
卵焼きやハンバーグなど私の好きなものばかりです。
私にはお父さんがいません。
それなのに、お母さんが働かないのでウチにはお金がありません。
国からの保護を受けて暮らしています。
お母さんの実家は資産家なんだそうです。
でも、自分勝手なお母さんは両親に愛想をつかされてしまい縁を切られてしまったのだそうです。
根がお嬢様だから働き方も知らないのです。
実家を頼ればいいのに、お母さんは変なところでプライドが高くて嫌になります。
お母さんはいつも無気力で私のことなど構ってくれません。
「死にたい死にたい」「ごめんねごめんね」それがお母さんの口癖でした。
だから、珍しく贅沢な夕ご飯を食べられて幸せでした。
お母さんも私も「おいしいおいしい」と言って食べました。
食べ終わると「ごめんね。ごめんね」といつものお母さんの口癖が始まりました。
食器を流し場に片付けると、なんだか気分が悪くなってきました。

8月3日曇り。

病院で目を覚ましました。
看護婦さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいます。
「・・・お母さんは?」と尋ねると、看護婦さんの顔がくもりました。
予定どおり、お母さんは死んでくれたんだなとわかりました。
疑われないよう自分も致死量を超えない量の毒を飲んでおいたのが功を奏したようで、警察の人にも疑われずにすみました。
お母さんが自分でご飯を作ることなんてないのにね。
警察の人は私を疑う気持ちなんて欠片もないみたいです。
午後には、お母さんの実家の両親(おじいちゃん、おばあちゃん)がお見舞いにきてくれました。
私は、「大丈夫だよ」とがんばって笑みを浮かべました。
本当は心の底からガッツポーズしたかったけど、今は我慢です。
この日記も、早く燃やさないといけません。

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