第56話「幽霊の証明」
「Sくん。幽霊って存在するのかな?」
クラスメイトのTくんが僕に聞いてきた。
僕にはTくんの気持ちが痛いほどわかってしまった。
Tくんのお父さんは去年の暮れに自殺していた。お母さんと小学校5年生のTくんを置き去りにして。
きっとTくんはお父さんに会いたいのだろう。その気持ちがわかったから、僕はTくんの提案に乗ることにした。
「二人で幽霊が存在することを証明しない?」とTくんは言ったのだった。
僕とTくんは色々調べて幽霊と接触できる方法を試してみることにした。
手始めはこっくりさんをやってみた。
五十音と「はい」「いいえ」の選択肢を画用紙に書き、僕とTくんの二人で10円玉に指を置いた。
「こっくりさん、こっくりさん。幽霊は存在しますか?」
すると、10円玉がするすると動いて「はい」の場所で止まった。
驚いている僕に対して、Tくんは冷静な顔つきだった。
「Sくん。今、10円玉を動かしたろ?」
見抜かれてしまった。僕は力を入れて10円玉を動かした。
この後、お父さんのフリをしてTくんの質問に答えるつもりだった。
「ずるはなしにしよう」
Tくんは僕の意図まで読み取ったのだろうか、優しくそう言った。
僕は申し訳なさでいっぱいだった。
その後、ネットで調べた幽霊が視えるという方法を色々と試してみたが、幽霊が現れるどころか奇妙な現象は何一つ起きなかった。
僕はうまいことTくんを慰めたかったのだが、あっさりTくんに見抜かれてしまったので、もうお父さんの幽霊のフリをしたりするのはやめることにした。
「やっぱり幽霊なんて存在しないのかもしれないね」
Tくんは残念そうに言った。
最後に、僕たちは地元でも有名な心霊スポットに行ってみることにした。
そこで幽霊と会えなければ諦めようということになった。
自転車で30分くらいの山奥にその廃墟はあった。
見た目はありふれた一軒家だったが、窓ガラスは割れ壁は壊れていて、いかにもな雰囲気をかもしだしていた。
猟奇殺人事件があったとも一家心中があったとも言われている場所で、幽霊の目撃談が後を絶たないらしい。ネットの噂が真実ならばだが。
僕たちは、その廃墟で一晩を明かすつもりだった。
木片やゴミを片付けて寝袋を並べた。
二人でミノムシのように寝袋に入って夜を待った。
「僕たち二人のうちで先に死んだ方は、残っている方にメッセージを伝えることにしない?そうしたら、幽霊が存在することが証明できる」
僕はTくんを励まそうと思ってそう言った。
「そうだね。そうしよう」
「約束だね」
「約束する」
Tくんは、嬉しそうにそう答えてくれた。
いつの間にか僕は眠ってしまったらしい。
気づいた時には辺りは真っ暗だった。
隣を見るとTくんの姿はない。僕は懐中電灯をつけてTくんを探した。
けど、いくら探しても廃墟の中にTくんの姿は見当たらなかった。
警察の捜索の結果、廃墟近くの雑木林で首を吊っているTくんが見つかった。
お父さんを追ったのだろうと警察の人は悲しそうに言った。
僕はTくんからのメッセージを待った。もしTくんの幽霊がいるなら約束を守って何らかのメッセージを送ってくれるはずだ。
1週間待っても何も起きず、やっぱり幽霊なんて存在しないのかなと半ば諦めかけた時だった。
真夜中、枕元にTくんが現れた。
やっぱり幽霊は存在するんだ!僕は嬉しくなった。
Tくんの幽霊は恨めしそうな目で僕をじっと見ている。
・・・どうして?
Tくんの幽霊はそうたずねてきた。
・・・どうして僕を殺したの?どうして!?
「だって君が望んだんだろ?幽霊の存在を証明したいって。そんな目で見ないでくれよ」
Tくんの幽霊はいつまでも僕を恨めしそうに見つめていた。