第55話「ノック」

最近、ノックの音に悩まされている。
夜になると、誰かがマンションの玄関をノックするのだ。
決まって夜の11時11分。
それも、コンコンコンと訪問する時の叩き方ではない。
ドンと一回だけ叩くのだ。
初めのうちはドアが軋んだ音なのかと思いもしたが、毎晩毎晩聞いているうちに、いや、あれは絶対誰かが叩いていると確信した。
俺は、ノックするヤツの正体を確かめることにした。
古いマンションでオートロックもついてないから誰だって部屋の前までは来られる上に、俺が住んでいるフロアには10世帯以上が住んでいる。
現場を押さえるしかないだろうと考えた。
インターフォンのモニターは、玄関チャイムが鳴らされなくても家の中から確認することができる。
11時11分になった瞬間、俺の部屋の前に立つヤツをモニタリングして、スマホのカメラで証拠もばっちり押さえようとかんがえた。

その夜。俺はインターフォンのモニターの前に張りついた。
モニターはさっきから誰もいない玄関前の廊下を映し出している。
時計を確認すると時刻は11時10分。もうすぐだ。スマホのカメラを起動した。
56秒・・・57秒・・・58秒・・・59秒・・・。
ドン!
来た!俺は反射的にカメラのシャッターを切った。
けど、ノックがした時、モニターには誰も映っていなかった。
やっぱりドアが軋んだだけなのだろうかと思った。
が、スマホで撮影した写真を見て、ゾゾゾッと悪寒が背筋を走った。
写真にだけ、ドアの前に立つ男が映っていたのだ。男は首を前に傾けてドアに頭でもたれかかっていた。
ドン!という音は、男が頭をドアに打ちつけた音だったのだ。

いくら調べても、俺が住む部屋で何かがあったという記録は見つからなかった。
その後も音は毎晩のように続いた。
実害があるわけではなかったが、俺はしばらくして、その部屋を引き払うことにした・・・。

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