第53話「ブログ」

「A子。いつの間にブログ始めたの?言ってよ」
ある日の高校からの帰り道、仲が良い友人のBちゃんからそんなことを言われた。
Bちゃんは、ネットサーフィンをしていたら私のブログを偶然に見つけたのだという。
私は、「やってないけど」と笑って答えたが信じてもらえない。
照れて隠していると思われただけだった。
日記だって3日と続かない私がブログなど作るはずがないのに。
しかたなく、Bちゃんと一緒にネットを確認することにした。
すると、不思議なことに作った覚えのない私のブログがたしかに存在した。
ブログ作者のプロフィールや顔写真は間違いなく私だ。
薄ら寒くなった。いったい誰がこんなことを・・・。
なりすまし・・・。話に聞いたことはあったが、自分の身に起きると気味が悪くてしかたなかった。
「私じゃない」必死にAちゃんに説明したが、Aちゃんは最後まで半信半疑のように見えた。
家に帰ってから改めて私の偽物が作ったブログを一記事ずつ確認した。
偽ブログの投稿記事には、私の日常で起きた出来事が忠実に書かれていた。
ある日の記事を読んで私はゾッとした。
私が部屋で一人で読んでいた本が紹介されていたのだ。
誰かにその本を読んだとしゃべった覚えはない。
わかるはずがないのだ。この部屋で私が読んでいるのを見てでもいない限り・・・。
いったいどうやって?何の目的で?疑問の数々が頭の中をぐるぐると回転する。
もしかして部屋を監視されているのではないか。
私は部屋中ひっくり返したが隠しカメラの類は発見できなかった。
その記事以外にも、私自身でなければわからないような内容がいっぱい書かれていた。
怖くなった。悪口をネットに書き込まれるといった直接的なものではなくても、強烈な執着心と悪意を感じた。
私は偽ブログにコメントを書くことにした。
「私が本物のA子です。誰だか知りませんがなりすますのはやめてください!」

次の日になってもコメントに対する返事はなかった。
ならば次の手だ。私が正真正銘本物のブログを作ればいい。そうすれば、いつまでもなりすましてはいられないはずだろうと思った。
さっそく偽物が使っているのと同じ無料のブログサービスに登録しようとした。
しかし、ブログ作者の個人情報を登録しようとすると、おかしなことが起きた。
“入力いただいたメールアドレスはすでに登録されています”
偽物は私のメールアドレスを使ってすでに登録していたのだ。
個人情報まで完全に盗まれていた。

そして、私をあざ笑うかのように、新しい投稿がブログにアップされていた。
内容を読んで、頭をガツンと殴られるようなショックを感じた。
「本音」というタイトルをつけられた記事には、友達のBちゃんに対する悪口が詳細に書かれていた。
Bちゃんは自分の話ばかりで私の話を聞いてくれないとか、自分の都合ばかり押しつけてくるだとか。
内容が当たっていなければ笑って無視もできるのかもしれないが、タイトルどおり、それは私の本音だった。
偽物は私の心の中を見透かしていた。
けど、私の気持ちの大事な部分が抜けていた。
文句はあっても、私はBちゃんのことが好きだ。人づきあいには本音を隠すことも必要だと思っている。
Bちゃんにも、私に対する不満があるはずだ。
そういうことを一切考えず、私の内面をわかったフリをしている偽物に対して無性に腹が立ってきた。
私は再びコメントを残した。
「いい加減にして!何もわかってないくせに!!」
すると、今度はすぐにコメントに対して返事がきた。
「私はあなた。あなたは私」
この人、おかしい・・・。怒りよりも、偽物に対する恐怖の感情が再び勝った。
私はブログサービスを運営している会社になりすましを訴える問い合わせをした。
事情を説明し私が本物のA子だと証明できたおかげで、偽物のブログはまもなく閉鎖された。

それからしばらく。Bちゃんとは相変わらず仲良くやっている。
偽ブログが閉鎖される前に、Bちゃんへの本音が書かれていた投稿記事をBちゃんが読んだかはわからない。
本当は読んだけど、読んでないフリをしてくれているのかもしれない。
私たちの仲にはごまかしや嘘がある。今はまだそれでいいと思っている。
少なくても他人からとやかく言われる筋合いはない。
その日もBちゃんと一緒に帰るため、私は校門の前で待っていた。
Bちゃんが校舎の方から駆け寄ってきて、私に言った。
「A子。今度は、twitter始めたの?」

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