第41話「携帯メール」

2016/09/01

7年前くらいの話です。

当時、俺には同棲している彼女がいました。
いつもは俺の方が仕事が終わるのが遅いので、彼女が夕ご飯を作って待っているんですけど、その日は、俺の帰りがたまたま早かったので、まだ彼女は帰ってきてませんでした。
たまには夕ご飯を作ってあげようかなと思い、冷蔵庫の中身を確認していた時でした。

ピロリン

携帯電話からメールを受信した音がしました。
ちなみに当時はまだガラケーが主流の時代です。
メールを確認すると彼女からでした。

彼女:今から帰ります。

変だな、と思いました。彼女は普段、そんなメールを送ってこないんです。
でも、単なる気まぐれかなと思い、その時は特に気にせずメールを返信しました。

俺:了解。

すると、すぐにメールの返信が来ました。

彼女:待っててくれる?

彼女の意図がよくわかりませんでしたが、ちょっとした遊び心なのだろうと理解してメールを続けました。

俺:待ってるよ。
彼女:どこにも行かないでね。
俺:もちろん。
彼女:急いで行くから。
俺:気をつけて。
彼女:楽しみにしててね。

いつまでこのやり取りが続くのだろうと思い、俺はだんだんイライラしてきました。
愛情表現なのかもしれませんが、彼女らしからぬやり方にとまどいを感じたのかもしれません。
つい、次の返信は、突き放すようになってしまいました。

俺:なんか、おかしくない?酒でも飲んでる?
彼女:もうすぐつくから待っててね。

会話のキャッチボールすら成立していません。
俺は、携帯電話をテーブルに投げ出し、もう返信をするのをやめました。

それから10分ぐらいして、玄関の鍵を開ける音が聞こえました。
スーパーの袋を両手に抱えて、彼女が帰ってきました。
俺に気がつくと、「あれ、もう帰ってたんだ」と何食わぬ顔で言います。
俺は呆れて、さっきまでのメールはどういうつもりなのかと問いただしました。
「そんなメール送ってない!」
何度聞いても彼女はそう言います。しまいには「見てみれば」と自分の携帯電話を俺に突きつけてきました。
確認してみると、たしかに、彼女の携帯電話の送信フォルダには俺にメールをした履歴がありませんでした。
でも、俺が受信したメールの送り主は彼女に間違いありませんでした。
いったいどういうことなのか、二人で困惑していた、その時です・・・。

ピロリン

俺の携帯電話に新しいメールが届きました。送信者は目の前にいる彼女でした。
ですが、さっきから彼女は携帯電話に指一本触れていません。
俺は震える手で受信メールを確認しました。

いまついたよ

俺と彼女は、急いでアパートを飛び出しました。
後で聞いた話ですが、逃げる時、彼女には部屋の中から女の笑い声が聞こえた気がしたそうです。

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