第34話「家族写真」

2016/09/01

これは、僕が小学校4年生の時に体験した恐ろしい話だ。

僕の父は写真を撮るのが趣味だったので、家のリビングの壁にはたくさんの写真が額縁に入れて飾ってあった。
その中で、どうしてもいつも気になってしまう写真があった。
それは、家族でハイキングに行った時に撮影されたもので、川をバックに父、母、兄、僕の4人が映っている何の変哲もない家族写真だった。
けど、ソファに座ってテレビを見ていたりすると、背後に飾ってあるその写真から視線を感じるような気がするのだ。
他の写真からは何も感じないのに、本能的に、その家族写真だけは気味が悪かった。
なぜなのか理由はわからない。
心霊写真でもあるまいし、自分達家族が映っているのだから、何も気味悪く思う理由などないはずなのに。

そんな、ある日のこと。
学校から帰ってきてランドセルをソファに置くと、また、例の家族写真が気になってしまい、じっと見つめてみた。
すると、写真の中の母の黒目がギョロッと動いた気がした。
ゾッと身の気がよだつ思いがした。
その晩、例の家族写真を飾らないで欲しいと父に頼んだが、笑って聞き流されただけだった。

あくる日の日曜日。
一人で留守番していると、やはりあの家族写真が気になってしまった。
見なければいいのだが、確かめずにはいられず、写真を見てみた。
すると、写真に変化が起きていた。
昨日まで僕の両肩に置いてあったはずの母の手が、僕の首を絞めていたのだ。
母の顔が楽しそうに笑っている分、余計に気持ちが悪かった。
僕はその家族写真を壁から外すとみんなが帰ってくるまで伏せておいた。
家族が揃ってから改めて見た時には写真はもう元に戻っていた。

その夜。気配を感じて、僕はハッと目を覚ました。
部屋の暗がりに人影があった。
シルエットから母だとわかった。
虚ろな目をして、じっと僕を見つめている。
突然、母は僕に覆いかぶさると、両手で首を絞めてきた。
「・・・やめて。苦しい」僕は絞り出すように言った。
涙が出てきた。
母の手を解こうとしても、万力のように力強くて外れない。
僕は、ベッド脇の棚にあった目覚まし時計をつかむと、母の側頭部に叩き付けた。
すると、母はハッと我に返ったように、手を離した。
僕は声を上げて泣いた。
母は状況が掴めないように呆然としていた。

その後、しばらく、我が家は混乱した。
母は僕にしたことを何も覚えておらず、僕は例の家族写真にまつわる話を父に全て打ち明け、父が霊能者に写真を鑑定してもらい、何か悪い霊が写真にとり憑いてしまったのだろうということで、写真を供養してもらうことになった。
そして、ようやく、平穏な日々が戻ってきた。
母は涙ながらに何度も僕に謝罪してくれた。

けど、今でも、ときおり思うのだ。
おかしかったのは本当に写真の方だったのだろうかと。
覚えていないというのは嘘で、母は、あの時、はっきりと意識があったのではないかという思いがどうしても拭えなかった。
むしろ、写真は僕に警告を与えてくれていたのだとしたら・・・。
だから、大人になった今でも、どうしても母との間には溝を感じている・・・。

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