第31話「隣の部屋」
2016/09/01
人がいつかない物件ってあるじゃないですか。
今、私が住んでいる賃貸マンションの隣の部屋が実はそうなんです。
つい先日も、隣に住んでいた夫婦が引っ越していったんですけど、半年ももたなかったですね。
その前の家族も3ヶ月くらいで出ていったんです。
家の建て替え期間だけ入居するとかそういうことなのかって納得してたんですけど、先日引っ越していったご夫婦の様子がどうにもおかしかったんです。
引っ越しの際中に、たまたま二人に表で会ったんです。
「あれ、もうお引越しですか?」って声をかけたんですけど、ご夫婦とも私と目を合わせようとしなくて。
会釈しただけで、すぐに、引っ越し業者さんのところに行ってしまって。
その様子がすごくワザとらしく見えたんです。
なんか、引っかかるものがあって、旦那に話してみたんですけど、仕事のことしか頭にない人だから、真剣に聞いてくれなかったんです。
もしかしたら隣の部屋は事故物件なのかもしれないなって一人で妄想だけ膨らませてました。
そして、ある日のことです。
その日は、旦那が出張だったので、私一人だけでした。
0時を過ぎたので、もう寝ようかなと思って寝室に行きました。
そうしたら、壁の向こうから声が聞こえるんです。ささやき声くらいの大きさです。
壁の向こうは、隣の部屋の1室なんですけど、今、隣の部屋には誰も住んでいないはずでした。
上の階の音が聞こえているのかなとも思うんですけど、なんだか怖くて、ソッと壁に耳を寄せてみたんです。
そしたら、女の人の声ではっきりこう聞こえました。
「今からそっちに行くね」