深夜のプール #019

2017/09/27

 

私が中学校3年生の夏休みももう終わりという頃のことだ。
仲が良かったクラスメイト5人と私を含めた6人で、深夜、中学校のプールに忍び込んで遊ぼうという話になった。
服の下に、授業で使っている競泳用の紺の水着を着こみ、タオルをバッグに詰めて、待ち合わせ場所の中学校の校門前に自転車で向かった。
けど、途中で自転車がパンクしてしまい、私は待ち合わせの時間に20分遅刻してしまった。

校門前には、誰の姿もなかった。
置いて行かれたことに軽いショックを受けたが、耳を澄ますと、微かに水音と騒ぐ声が聞こえる。
みんな先にプールに行ってしまったんだ。
私は校庭のフェンスをよじ登って乗り越えると、プールの方へ走った。

真っ暗なプールの中に5つの人影があった。明かりもないから誰が誰だかわからない。
「遅れちゃって、ごめんね!」私は誰にともなく言った。
「早く来いよ!」野太い声はヤマト君だろう。
「遅いよ~」少し甘えたような口調はエリに違いない。
私は、服を脱いで水着になると、プールの水に足をつけた。
夜のプールは刺すように冷たかった。
一気に身体までつかると、だんだんと身体が水の冷たさに慣れてくる。
星の明かりしかない真っ暗なプールは、少し薄気味悪かった。
私一人だったら10秒もこんな場所にはいられないだろう。

平泳ぎをしてみんながいる場所に向かった。
暗すぎて近くまで来ても顔が見えない。
「鬼ごっこしようよ」誰かがいった。
ジャンケンで鬼を決めようとしたが、暗くてグーチョキパーの区別すらつかないので、ヤマト君がいきなり鬼に変貌した。
私達はワーワー騒ぎながら、プールの中を逃げ出した。
鬼ごっこはなかなか白熱した。
何度か鬼が代わり、私が鬼の番になった。
目が慣れてきて、ようやく影で人がいる場所がわかる程度にはなってきた。
みんなとの距離を測ろうと思って回りを見渡して、ものすごい違和感を覚えた。
何かがおかしい・・・。
けど、何だろう。
その瞬間、違和感の正体わかり、悪寒が背筋を走った。
「一人多くない!?」私は叫んでいた。
一緒に遊んでいるクラスメイトは5人のはずなのに、影は6つあった。
一瞬の沈黙の後、誰かの叫び声が上がり、蜘蛛の子を散らすように、みんなプールから逃げ出した。
私は服とバッグを回収することもなく、競泳水着のまま、悲鳴を上げながら、とにかく逃げた。

校庭のフェンスを乗り越え、表通りの街灯の明かりの下まできて振り返った。
みんなとははぐれてしまったようだ。
どうしようと思っていたら、誰かが近づいてくる気配がする。
ポツポツポツと水音が滴る音がする。
影がこっちに近づいてくるのが見えた。
「誰?」呼びかけてみたが返事はない。
「誰なの!?」強く言った。
暗闇の中から、男の子の足が街灯の明かりの下にゆっくり現れた。
競泳パンツを履いている。痩せっぽっちの身体は異様に白い。
黄色い競泳用の帽子を被っているのが見えた。
・・・だが、そこに立っていたのは、見たこともない男の子だった。
私が覚えているのはそこまでだった。

翌日の早朝。私は競泳水着のまま倒れているのを近所の人に発見された。
深夜のプールに忍び込んだことを警察の人や先生からこっぴどくしかられた。
なにより、そんな姿で発見されたのが恥ずかしくて仕方なかった。
そして、私を置いて帰ってしまったみんなのことをちょっとだけ恨んだ。
ひとことくらい恨み言を言おうと思ってエリに電話すると、開口一番とんでもないことを言われた。
「・・・なんで約束の時間に来なかったの?おかげで、プールに行けなかったじゃん」
詳しく聞いてみると、昨夜待ち合わせ時間を過ぎても私が現れなかったため、5人はしばらく待っていたらしい。
すると、たまたま自転車でパトロールしていたお巡りさんが通りかかり、全員、家に帰らされてしまったのだという。
昨日、プールに私のクラスメイトは一人もいなかった・・・。
私は、昨日、いったい誰と遊んでいたのか・・・。

思い出すたび、今でもゾッとする。

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