第6話「ホームレスの預言」

2016/08/30

私が中学生の時、通学路の陸橋下に奇妙なホームレスが住み着いていた。
骨が見えそうなほどガリガリに痩せていて、髪なんてボサボサに伸び放題だったので、見た目はまるで仙人のようで、いつも上半身裸で地べたに座り込んで、ボソボソと独り言を喋っていた。彼の周りはえた臭いが漂っているので、前を通る時は、自然と早足になった。

そのホームレスに関して、奇妙な噂が立ったのは、私が中学3年の秋頃だったと思う。彼が喋っている独り言が、実は未来を予言しているという噂だった。
私が聞いたのはこんな話だ。とある高校の野球部の集団がホームレスの前を通った時、彼は一人の部員に向かって「燃える・・・」と言ったという。誰も気に止めたりしなかったが、その夜、その部員の家はタバコの不始末が原因で火事になったという。
また、ある女子生徒は、ホームレスから「・・・会えないよ」と言われ、気味悪く思ってたところ、その日の夜、彼女の父親が仕事場で倒れて、死に目に会えないまま帰らぬ人になったという。

ホームレスの「預言」は、ちょっとしたブームを巻き起こした。占い師を頼る感覚で彼に未来を尋ねに行くものたちが現れ出した。しかし、彼は尋ねた質問に預言で答えてくれるわけではなかった。ある時、私の同学年の女子達が、意中の彼と結ばれるか予言して欲しいと尋ねにいったものの、ホームレスは黙って宙の一点を見つめるばかりだったという。

そんな、ある日のこと。受験を控えていた私は予備校からの帰りに陸橋の下に差し掛かった。例のホームレスがいつものように座り込んでいるのが見えた。足早に彼の前を通り過ぎようとした時、彼が何か言っているのが耳に入ってきた。私は、思わず足を止めてしまった。もしかしたら予言かもしれないという思いが働いたのかもしれない。
「・・・落ちるよ」聞き取れたのは、それだけだった。私は、逃げるように家に帰った。
私は実力より一段上の難関校を受験の第一志望にしていた。ホームレスは私が受験に失敗する未来を予言したのだ。それからというもの、半ば受験を諦めてしまい、勉強に身が入らず、両親からたしなめられたりもしたが、最後までやる気を取り戻すことはなかった。馬鹿みたいだが、ホームレスの予言を信じ込んでしまっている自分がいた。

しかし、意外にも第一志望の難関校は合格だった。完全に諦めていたので信じられない思いだったが、ふと疑問が頭をもたげた。受験でないとしたら、「落ちる」というホームレスの予言はなんだったのか。その話をすると、友人の誰もが、ホームレスの予言など信じる方が馬鹿だと笑う。
だが、高校2年になった今でも、私は何から「落ちる」のか怯えている・・・。

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