【怖い話・心霊】人形 #001

2017/11/18

 

私が小学校4年生の時、一番の仲良しだったAちゃんが交通事故で死んだ。
お葬式の日、私は、Aちゃんのお母さんに呼び止められた。
お母さんの手には、Aちゃんが肌身離さず大事にしていたビスクドールが抱えられていた。
「これ、もらってくれないかしら」
当時、小学生だった私にも、お母さんが形見分けのようなつもりで人形を私に持っていてもらいたいのだとわかった。
だが、その人形をよく見ると、ドレスの端に小さな赤黒いシミのような跡があった。
Aちゃんが事故にあった時に持っていたのだと私はすぐに理解した。
そんな縁起の悪い人形をもらうのは嫌だったが、憔悴しょうすいしきったAちゃんのお母さんを前にして断りきれず、私は人形を家に持って帰った。

奇妙な出来事が始まったのは、それからだった。
私は、Aちゃんの人形を机の一番下の引き出しの奥深くにしまい込んで、しばらくしたら捨てるつもりだった。
いくら仲がよかったとしても、血がついた人形なんて気味が悪くて持っていたくなかった。

その夜。ベッドで寝ていると、奇妙な音で目を覚ました。

カリカリカリ・・・。

身をよじって音の出所を探すと、その音は机の一番下の引き出しから聞こえてきていた。
何の音?私は耳をすませた。何か生き物が爪を立てているように聞こえる。
虫ほど小さくはなさそうだ。
ねずみ?
いや・・・人形が外に出ようとして、引き出しの中から爪を立てて引っ掻いている・・・?
恐怖が全身を駆け抜けた。

気がつくと、朝だった。昨日の出来事は夢だったのか。あの音を聞いた後の記憶がない。
私は、布団から抜けだそうとして、思わず声を上げた。
机の上に、Aちゃんの人形がこちらを向いて座っていたのだ。

私は、お母さんに事情を話したが、笑われただけで信じてもらえなかった。私は人形を捨てると言い張ったが、お母さんは「Aちゃんに申し訳ないと思わないの?」と言うばかりでなかなか許してくれなかった。
「それに、もし本当に人形が動いたのだとしたらAちゃんがあなたに最後の挨拶にきたのよ」
「Aちゃんなら、私を怖がらせたりしないよ!」
そんなやりとりが何度か続いて、結局、人形は鍵つきの箱にしまって物置で保管することになった。

その日の夜。ベッドで眠ろうとしても、人形のことが気になってなかなか寝付けなかった。ようやくまどろみ始めたと思ったら、月明かりがカーテンから差し込み、目が再び冴えてしまった。窓の方に顔を向けると、カーテン越しに、外に小さな影が立っているのが見えた。ちょうどAちゃんの人形くらいの大きさだ。影は窓に手を伸ばして私の部屋に入ってこようとしていた。
私は、窓の鍵をかけ忘れていたことを思い出した。
急いで起き上がって鍵をかけにいかなきゃ!!
そう心は叫んでいるのに身体が言うことを聞いてくれない。
私は震えることしかできなかった。
「・・・ずっと一緒だよ」
小さな女の子の声が聞こえた気がした。

気がつくとまたしても朝になっていた。全身汗びっしょりだった。
起き上がろうとして、指先に何かが触れた。
Aちゃんの人形が、私の枕の横に寝そべっていた。
私は近所中に響き渡るような悲鳴を上げた。

私の取り乱した様子と、鍵つきの箱にしまっていたはずの人形が私の部屋にあったことから、ようやくお母さんも私の言うことに耳を傾けてくれて、人形はAちゃんのお母さんに返すことにした。
「どうしてもAちゃんを思い出してしまうから」という理由に、Aちゃんのお母さんも納得してくれて、人形はAちゃんの部屋の棚に戻すことになった。
人形を元の場所に戻すと、私はAちゃんの冥福を祈って手を合わせた。
・・・安らかに眠ってね。
その時だった。私は視界の隅で、Aちゃんのベッドの下に紙切れが落ちているのに気がついた。
拾って、紙切れの内容を確認した私は愕然とした。

『あんな人形買わなければよかった。あの人形はおかしい。毎日、話しかけてくる。いつも一緒にいないと、嫌がる。捨てても捨てても戻ってくる。大事にしないと酷い目にあわせるっていう。怖い怖い。お母さんに相談しよう』

見覚えのあるAちゃんの字だったが、よほど追い詰められていたのか書き殴られたように乱れていた。
震えが止まらなかった。Aちゃんはもしかして人形に殺されたの・・・?
私は、ハッとして振り返った。ドアのところにAちゃんのお母さんが立っていた。
見たこともないような冷たい目をして、私を睨んでいる。
そして言った。
「・・・あの日、あの子は、あんたに人形をあげに行ったのよ・・・あんたも死ねばよかったのに」
吐き捨てるように言い放ったAちゃんのお母さんの後ろで、あの人形の目が怪しく光った気がした。
私は逃げるように自分の家に走って帰った。それからというもの、私はAちゃんの家に近づかないようにした。Aちゃんのお母さんが何かしてくることはなかった。大人になった今でもビスクドールを見るたびにあの日のことを思い出してしまう。あの人形もAちゃんのお母さんも、今はどこにいるのかわからない・・・。

-怖い話